ロシアGPも無事に終わり、毎年恒例の日本GP強化週間に入ります。日本で「日本GP」以外の日本開催といえば、以前一度振り返ったこともあるパシフィックGPですね。たった2回の開催のうちの2回目、1995年の第15戦に行われたパシフィックGPを振り返ります。
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このGPは結果的に第16戦の日本GPの直前にあたる10/22に行われて「2戦連続の日本開催」という夢のようなシチュエーションでした。ただこれは意図してこうなったのではなく、実は前年1994年と同様に春開催の4/16が決勝となる第3戦に設定されていました。しかしこの年は1/17に阪神・淡路大震災が発生、お隣神戸を中心とした関西地区に甚大な被害が及んだため、急遽移動してこのような連戦が生まれています。F1の夏はヨーロッパのものだし、僻地の日本で行うなら春か秋。お楽しみが2度ある方がよかったのか、2戦連続が移動距離も少なくてよかったのか、考え方は様々ですね。

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このパシフィックGPから新入りがF1デビューを果たしました。赤いレーシングスーツにメルセデスのロゴ、この可愛らしいドライバーは誰だ?!
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これは24年後の同じ人。何だか人相は変わってしまいましたが、面影がありますよね。ヤン・マグヌッセンです。ハースの「危険人物」ことケビンの父親。マクラーレンの若きエースであるハッキネンの病欠により、代理出走となりました。そういえばケビンもデビューはサードドライバーを経たマクラーレンからでしたし、年齢も父親と同じ22歳で同じような系譜を辿っています。ちなみにこの時既にケビンは3歳、さすがにパパのF1デビューは覚えていないかな。
ニュルブルクリンクでの第14戦ヨーロッパGPまでにベネトンのM・シューマッハが7勝の82ポイントで首位を突き進み、2位ウィリアムズのD・ヒルが3勝の55ポイントで迎えています。ヒルとしては自力チャンピオンの可能性は既に絶たれ、パシフィックGPを含めたシーズンの残り3戦でヒルが全勝の30ポイントを獲得して、シューマッハが2ポイント獲得に止まる場合にのみ初チャンピオンが成立するという、まさに「首の皮一枚」の状態で岡山入りしました。2位では追いつきません。

抜き辛い低速レイアウトのTIサーキット英田において、予選は肝心のヒルではなく2年目のチームメイトであるD・クルサードがポールポジションを獲り、2番手ヒルを挟んだ3番手にシューマッハという構図となりました。クルサードがヒルにトップを譲る方策はあっても、シューマッハが3位の4ポイント獲得されてはダメ。
日本人ドライバー最上位はリジェ・無限ホンダからアルバイト出走する鈴木亜久里で12番手。第13戦ポルトガルGPでクラッシュを喫し、1戦のお休み明けとなったティレル・ヤマハの片山右京が17番手。さらに「色んな意味」でフットワークが軽いフットワーク・ハートの井上隆智穂が20番手となり、何とこのレースに3人エントリーしています。本当はさらに2人、フォルティ・フォードから野田英樹、パシフィック・フォードから山本勝巳が参戦を目論みますが、スーパーライセンスが発給されなかったため断念しています。上手くいけば5人参戦とは、さすが「日本の」GPですね。

《予選結果》
   1 D・クルサード (ウィリアムズ・R)
   2 D・ヒル       (ウィリアムズ・R)
   3 M・シューマッハ(ベネトン・R)
   ※タイヤはグッドイヤーのワンメイク

英田の決勝は1周が短いため83周で争われます。スタートで失敗してしまうようなことがあれば、低速で狭く抜き辛いという地獄のようなレース内容となりますので、スタートが肝心です。
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スタートは失敗できない、スタートでやられるわけにはいかない、ヤツにずっとテールを見せつけていくんだ。ヒルはシューマッハを頑なに牽制して、行く手を塞いでいきます。
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気迫負けかシューマッハをアウトにはらませ、5位まで落とすことに成功したヒルでしたが、イン側がガラ空きとなり、4番手スタートのアレジに2位のボーナスを与えてしまいました。ヒルはシューマッハのことしか見えていない。他にも前を伺うライバルがいるわけで、ヒルのシューマッハ撃破は「優勝すること」が条件なはずです。

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ヒルのブロックにより5位まで落とされたシューマッハは5周目にベルガーをパスして3位を走るヒルを猛然と追いかける。フェラーリをいとも簡単に攻略したシューマッハに対して、ヒルはもう一人のフェラーリを抜きあぐんでいます。英田は抜けないのです。
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さっきはよくもしてくれたな。ヘヤピンをアウトから仕掛ける。ヒルもここまでか?!
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耐え抜く。抜かれ辛い英田で自身はチームメイトのいるトップのいる位置まで到達しないと成立しません。

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アレジ、ヒル、シューマッハのラインナップで動きが起きないまま、序盤20周目に1回目のピットインに入ります。3ピットストップで三者合わせる形に。
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シューマッハは6.3秒で完了、アレジも完了して順調にトラックインする中で、ヒルだけはなかなかその集団に混ざりません。ヒルは2ピットストップ戦略並みの停止時間12.2秒もかかって、結局シューマッハ、アレジ、ヒルの順に入れ替わります。シューマッハはいい空間にマシンを差し込めましたが、ヒルは中団の遅いマシンの後ろに。
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ウィリアムズはチーム側の不手際が大きく足かせになりました。これではトップどころかシューマッハにもどんどん差を広げられてしまいます。早く抜いて追いつかねば!

アレジは24周目にジョーダンのアーバインをパス。ヒルも続きたい。
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接触。左フロントウィングにダメージと低速テクニカルの英田で致命傷と負ってしまいました。
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こうなったらトップをひた走るクルサードに託すしか術はありません。クルサードは2ピットストップ戦略の1回目を終えて、2位のシューマッハまでは7秒のギャップ。その後シューマッハの2回目、クルサードの2回目を終えて順位が入れ替わり、シューマッハは15秒の先行ギャップで3回目を行わなければなりません。ピットストップによるロスは24秒と計算されていたため、無難にいけばクルサードに分があります。
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しかしこの年の26歳のシューマッハはイケイケ。チャンピオンを獲るならトップで獲りたいという勢いがあります。59周目の3回目ピットを終えて戻れば
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クルサードの前、トップに。ベネトン陣営やったあ!
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ウィリアムズは2年連続でベネトン&シューマッハにやられた。。
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《決勝結果》
   1 M・シューマッハ(ベネトン・R)
   2 D・クルサード (ウィリアムズ・R)
   3 D・ヒル       (ウィリアムズ・R)

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第16戦の日本GP、最終戦オーストラリアGPを残し勝ってチャンピオンを獲得したシューマッハ。1年目の94年はグレーに近いチャンピオン獲得となりましたが、この年は完膚なきまでの走りをもって、レース参戦の歴史も長くないベネトンを最強チームにのし上げました。やっぱり「自らが勝ってチャンピオン」というのが清々しいですね。

なお、パシフィックGPは翌1996年も第2戦あたりに組み込まれる打診をされましたが、開催時期が近く、集客面においても日本GPと相殺による減収の懸念もあり、この年を最後に行われなくなりました。

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