ドイツGPを振り返る時、不思議と空撮を目にしてしまいます。それは一見F1が行われると思えない木々が密集しているからだと思います。こちらは今から25年も前になる1994年の第9戦ドイツGPの舞台、ホッケンハイムリンクの様子です。
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現在のようなショートカットレイアウトに見えますよね。この角度では見辛いですが、まだまだアリクイ型の旧レイアウト時代です。森の中に高速トラックが潜んでいます。
1994年は前年からの大幅レギュレーション変更からはじまり、シーズン序盤の大事故を受けて更なる変更を伴うこととなりました。数多くの変更の中でも特徴的なものとして、こちらがあります。
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1983年シーズンをもって廃止していたレース中の再給油が復活したことです。レースのエンターテイメント性を高めることを目的として、FIA副会長バーニー・エクレストンが導入に踏み切りました。再給油は燃費を考える心配を減らし、スタート時から車重の軽い状態を築いたり、ピットストップタイミングに自由度が増すなど「性能の似通ったライバルとの戦略の差別」を図ることが可能になります。

ウィング類の影響を極力減らし、何よりパワーがモノをいうホッケンハイムリンク。予選はフェラーリが持ち込んだ予選専用エンジンが功を奏し、アレジが暫定トップに立つと
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ベルガーがそれをさらに0.43秒上回ってフェラーリがフロントロウグリッドを獲得することに成功。セナ亡き後も成長を続ける地元M・シューマッハはヒルを挟んだ4番手、日本人唯一の参戦となるティレルの片山右京は何と当時の日本人最高位となる5番手を獲得しています。
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《予選結果》
   1 G・ベルガー (フェラーリ・F)
   2 J・アレジ     (フェラーリ・F)
   3 D・ヒル        (ウィリアムズ・R)
   ※タイヤはグッドイヤーのワンメイク

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ダミーグリッドに就く片山。日本のヤマハエンジンのパッケージで鈴木亜久里に続く日本人2人目の表彰台登壇の期待がかかります。
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5番手の片山はフライング気味の絶妙なダッシュでシューマッハ、ヒルをターン1までにさばき、一気に3番手まで浮上してきました。表彰台獲得まっしぐら!
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それと同時に後方グリッドでは右へ左へと散らかり、砂煙が立ち昇る様子が見受けられます。
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続いて8番手スタートのマクラーレンのハッキネンが6番手スタートのウィリアムズ代走昇格のクルサードのイン側に接触して、隊列を斜行。
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あららら、中団も大混乱。2箇所でのアクシデントにより、出走26台中10台が一瞬で姿を消すという大荒れ。
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本線にはまだクラッシュしたマシンが取り残されてトラック上にスタッフが立ち入って大混乱しています。第3戦サンマリノGPの大事故頻発の時もそうでしたが、赤旗中断ではなく黄旗によりレースが続行されています。あまり教訓が生かされていないような、、。様子を見にフェラーリピットからこの方が立ち上がる。
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昔はフェラーリでアドバイザーをされていたんですよね。赤いキャップと合わせてよく似合っています。
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中団の混乱のきっかけを作ったとされるハッキネンは危険走行と判断され、翌戦ハンガリーGPの出走停止が下りました。若き頃のハッキネンはマクラーレンのエースになった焦りからか、まだまだ「荒削り」な感じ。

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レースに目を向けると、2番手のアレジがマシントラブルで脱落し、水色のベネトン、シューマッハが片山を抜き返して2位に復帰しています。ヒルの攻撃は防ぎ切って、先頭から少し離れた白のマシンが3位を走行する片山です。
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ただ片山も6周目にスロットルがいうことを聞かなくなりスピン。予選好位置から見事なスタートダッシュをみせても、表彰台はおろか入賞も完走も出来ず。
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UK「あー悔しい悔しい悔しい!!」

アレジもいない、ヒルも最後尾に沈み、トップはベルガーとシューマッハの一騎打ちになります。
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右からでも左からでも、どっちからでもイケちゃう。元気元気!!ドイツGPで地元ドイツの天才若手が先頭を走るなんて、ファンからしても最高な瞬間でしょう。ボルテージが高まります。間隙を一気につく勢いある攻め、そして熱狂的なファンとの組み合わせをみていると、今日のM・フェルスタッペンとダブります。
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F・ブリアトーレはシューマッハと合わせてダブル表彰台を狙うべく4位走行のJ・フェルスタッペンを15周目にピットへ呼び寄せます。
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タイヤ交換と給油ね、よろしくー。
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給油ノズルから透明の液体が吹き出し、フェルスタッペンは左手で軽く払い除ける。その瞬間、リヤのエキゾースト付近を起点に
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一気に炎に包まれる。レース中の再給油で最も恐れていたことが9戦目にして起きてしまいました。
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当然ガソリンを浴びたピットクルーにも引火、早く消して!!あとフェルスタッペンがまだコクピットにいます。消火液をぶっかける。
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JV「ふぅー、さすがにシビれたぜ。へっへ」
フェルスタッペンは無事でした(無事でなければこれから4年後にマックスは生まれていないわけで)
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再給油に踏み切ったエクレストンは記者に囲まれています。miyabikun個人的にはレース中の再給油はアリだと思います。動きあるレースを生み出し、戦略の自由度が増しますし、例えミスがあってロスしてもドライバー同士だけでなく「チームクルー一丸となってライバルと戦う」という使命感や緊張感も張り詰めることになります。ただし安全の徹底や日々の鍛錬、二重管理は必要です。

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ベネトンもとうとう一台になってしまいました。そのシューマッハのエンジンも20周目に白煙と共に散る。
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MS「何でこうなっちゃうのかなぁ」
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FB「あーれまあ、やっちまったべ」
F1参戦4年目、2位1回、3位1回を経験するシューマッハは、ファンの期待届かず3回目のドイツGPでどうしても頂点に立つことを許されず。逆にフェラーリはプロストによる1990年第14戦スペインGP以来続いた未勝利を3年半59戦目でようやく断つこととなりました。
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《決勝結果》
   1 G・ベルガー    (フェラーリ・F)
   2 O・パニス       (リジェ・R)
   3 E・ベルナール (リジェ・R)

ベルガー以外の上位ドライバーに何かが起こる。まさに「ホッケンハイムの森に棲む魔物」に翻弄されたのでしょうか。今はレイアウトが短縮されましたのでその様相は薄れましたが、この旧レイアウト時代は人っ子いない「両サイドが森林」という中にウィングぺったんこ、超高速で飛び込んでいくのにホッケンハイムリンクらしさを感じました。表彰台の両サイドはリジェのパニスとベルナールが獲得し、26台出走、完走6台全車入賞、20台リタイヤのサバイバルバトルの幕が閉じました。

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2021年を目標に現FIA会長であるジャン・トッドがF1レース中の再給油復活を掲げています。安全対策、技術向上した現在、このフェルスタッペンのような大火災は起きにくいと考えてはいますが「絶対」はありません。より精査し、安全な形でF1シーンに戻ってきてくれれば、決勝レースもより活性化したものになると考えます。

最後に、先日7/18に京都で痛ましい放火事件が発生しました。この記事は事件前に大方書き終えていたのですが、内容的に適切かどうか悩みました。考えた結果、レース選定の趣旨が「ホッケンハイムの過去レースであること」「将来有望な若手の地元凱旋(M・フェルスタッペンをイメージ)」「フェラーリ悲願の久々優勝」「将来再導入を検討する『再給油』の危険性を認識する」であるため、追悼の意も込めてそのまま掲載することとしました。
放火事件の原因や方法など、まだ断定されたわけではありませんが「ガソリン引火による爆発、炎上」が疑われています。ガソリンは日常生活の身近に存在し、特に自動車を趣味とする我々にはより近い位置にあります。ガソリンはご存知の通り、着火点が低く、液体そのものに着火しなくても気化する蒸気が高温や電気に近付くと発火、爆発します。F1シーンに関わらず、我々も取り扱いには今後も引き続き気を付けるとともに、京都アニメーションの被害者にご冥福を、関係者に対して心よりお見舞い申し上げます。

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