以前に昨シーズン調べていた「ポールタイムの変遷、推移」について、速度変換して時代別ににみてきました。覚えていますか?!(笑)今回はシーズン開幕前の大切な時期ではありますが、その続き「サーキット別」のデータを着目していきます。
簡単におさらいをしておくと、毎レース前に行われる予選でポールポジションを獲得したマシンについて、サーキット全長から平均順位を算出、そこから時代やレギュレーションによる変化や最も速い年やサーキットを割り出すというものです。前回は71年の歴史を持つF1においてどのような速度変位があるか、どの年が一番速いのかを割り出しました。今回はサーキット単位でみていくこととし、まずF1制定初年から昨年2020年までの対象サーキットの抽出数と平均速度の平均を列挙します。
《サーキット別抽出数と平均速度》
アルバートパーク 24回 平均220.0km/h
バーレーン国際 16回 平均213.6km/h ◯※
上海国際 16回 平均204.7km/h
ヴァレンシア市街地 5回 平均198.6km/h
バクー市街地 4回 平均213.3km/h
カタロニア 30回 平均212.6km/h ◯
モンテカルロ市街地 66回 平均142.7km/h
ジル・ヴィルヌーブ 40回 平均199.6km/h
ポール・リカール 16回 平均209.4km/h
レッドブルリンク 32回 平均229.8km/h ◯※
シルバーストン 54回 平均218.9km/h ◯※
ホッケンハイムリンク 37回 平均229.0km/h
ハンガロリンク 35回 平均190.0km/h ◯
スパ・フランコルシャン 53回 平均222.0km/h ◯
モンツァ 70回 平均234.7km/h ◯
マリーナ・ベイ市街地 12回 平均177.4km/h
ソチ 7回 平均224.0km/h ◯
鈴鹿 31回 平均223.1km/h
COTA 8回 平均206.5km/h
エルマノス・ロドリゲス 20回 平均187.9km/h
カルロス・パーチェ 37回 平均206.8km/h
ヤス・マリーナ 12回 平均203.5km/h ◯
ニュルブルクリンク 41回 平均184.1km/h ◯
マニ・クール 18回 平均204.4km/h
エンツォ・フェラーリ 28回 平均211.9km/h ◯
インディアナポリス 8回 平均210.6km/h
セパン国際 19回 平均203.6km/h
イスタンブールパーク 8回 平均215.8km/h ◯
28/74サーキット 37.8%
747/1,035戦 72.2%
抽出サーキット全平均 207.1km/h
◯は2020年に開催、追加したデータを含む
※二開催サーキットは速い方のデータを抽出
濃い色の棒グラフは今シーズン2021年に開催予定されているサーキット(上海国際は開催不透明のため、こちらに属する)で薄い色は既に現役から外れているサーキットとなります。上の一覧の◯マークとは異なりますのでご注意下さい。全74ある開催サーキットのうちの対象は28に止まりますが、ポイント対象となる1,035レースのうち747レースがこのグラフに入ってきます。近年まで続くサーキットから抽出していることもあって、グラフの大半は濃い色で示されます。上の一覧は各サーキットの平均速度を例に挙げていますが、これを年毎にグラフ化すると、こんな感じになります。
前回のまとめでも出てきたやつですね。訳がわからないくらいぐちゃぐちゃしてしまいます。さすがにこれでは何が何だかわからないため、1986年と87年の間を境目とし、2つに分けてみていくことにします。
《1986年までのサーキット別抽出数と平均速度》
アルバートパーク 0回
バーレーン国際 0回
上海国際 0回
ヴァレンシア市街地 0回
バクー市街地 0回
カタロニア 0回
モンテカルロ市街地 33回 平均128.8km/h
ジル・ヴィルヌーブ 9回 平均180.5km/h
ポール・リカール 10回 平均205.2km/h
エステルライヒリンク 17回 平均230.5km/h
シルバーストン 20回 平均196.4km/h
ホッケンハイムリンク 10回 平均224.2km/h
ハンガロリンク 1回 平均161.5km/h
スパ・フランコルシャン 21回 平均212.8km/h
モンツァ 36回 平均219.4km/h
マリーナ・ベイ市街地 0回
ソチ 0回
鈴鹿 0回
COTA 0回
エルマノス・ロドリゲス 9回 平均168.4km/h
カルロス・パーチェ 7回 平均192.3km/h
ヤス・マリーナ 0回
ニュルブルクリンク 24回 平均167.0km/h
マニ・クール 0回
エンツォ・フェラーリ 7回 平均201.5km/h
インディアナポリス 0回
セパン国際 0回
イスタンブールパーク 0回
13/74サーキット 17.6%
204/1,035戦 19.3%
抽出サーキット平均 191.4km/h
こちらが1986年以前の抽出したサーキットのデータ数と平均速度の平均になります。対象はガクンと減り204になっています。71年の歴史のほぼ半分にあたるこの時代は1シーズンのレース開催数が少ないこともありますが、今回の抽出対象外としているGPやサーキットも多くあるため、精度としては後半のグループよりも悪くなります。「平均速度の平均」は191.4km/hと200km/hに達しません。F1には違いないんだけど、今の時代のF1とは感じが違うように感じますよね。内訳をグラフ化したものを見てみましょう。
対象は13サーキットということで、先程のぐちゃぐちゃグラフよりはだいぶ見易くなりました。サーキット毎に色の塗り分けをしていますので、この量なら追い切れると思います。全体的に右肩上がりのグラフになっています。グラフの下を一人這うのは茶色のモンテカルロ市街地です。非常にわかりやすい。ただ常に最低速サーキットに君臨し、幾度となくレイアウトを変えつつも様々なマシンレギュレーションに左右されず右肩上がりに速度向上している様は「マシンの性能向上の賜物」と言っていいでしょう。
速度上位のサーキットをみてみると、黄色のモンツァがF1創成期から高速の部類に位置しているものの、それに沿う形で薄いグレーも続いています。当時市街地サーキットに位置付けられたスパです。今の第2セクターのようなサーキット専用区間を走らず、南部の市街地を駆け抜けていた頃はバンピーながら線形がよかったため、平均速度は高めとなっています。スパの旧レイアウトが廃止され、さらにはモンツァにシケインが設けられた1970年代に入ると、それに代わって緑色のシルバーストンや紺色のエステルライヒリンク(現 レッドブルリンク)、水色のホッケンハイムリンクが高速サーキットとして名乗りを上げてきました。時期はちょうどF1での死亡事故が取り沙汰され、徐々に安全への配慮が始まった頃と重なります。ただ、危険サーキットの廃止やシケインなどで安全への配慮をしながらも、速さを求める技術向上も相まって、1980年代に入る頃は一度失った速度を戻すような「いたちごっこ」が始まることとなりました。ルノーに端を発するターボエンジンを搭載する80年代前半までにはシルバーストンやエステルライヒリンクにおいて平均速度は260km/h近くに達しています。
サーキット単位で平均速度をグラフ化しました。この時代はエステルライヒリンクが平均230.5km/hで最も速い値となり、2番目はホッケンハイムリンクの平均224.2km/h、3番目がモンツァの平均219.4km/hとなり、ほかスパ、ポール・リカール、エンツォ・フェラーリ(イモラ)までが平均200km/hオーバーという結果でした。起伏がある上に速いエステルライヒリンクが危険とされた理由がよくわかります。また最近復活したポール・リカールもミストラルストレートにシケインの無かった時代で平均速度は高めに出ています。なお、この時代の抽出サーキットの平均速度は191.4km/hとなっています。
《1987年以降の平均速度変遷》
ここからは日本でも全戦F1中継が始まった比較的近代の1987年以降をみていく訳ですが、まずは正直ベースのグラフをご覧下さい。
ここからシーズンのレース数も数を増し、対象(抽出した)サーキット数が増えるため、パワーユニットが切り替わる2005年と06年に境目を入れて表現しましたが、、ぐちゃぐちゃ過ぎて訳がわかりません。数以上に悪さをしているのは「ウェットによる平均速度の落ち込み」です。これじゃあ知りたいことが何も入ってこないため、1987年以降のわかる範囲でウェット路面の予選も対象から外すようにしました。
《ウェットを除く1987年以降の抽出数と平均速度》
アルバートパーク 23回 平均221.7km/h
バーレーン国際 16回 平均213.6km/h
上海国際 14回 平均208.2km/h
ヴァレンシア市街地 5回 平均198.6km/h
バクー市街地 4回 平均213.3km/h
カタロニア 30回 平均212.6km/h
モンテカルロ市街地 33回 平均156.6km/h
ジル・ヴィルヌーブ 30回 平均205.9km/h
ポール・リカール 6回 平均216.5km/h
レッドブルリンク 14回 平均232.9km/h
シルバーストン 33回 平均233.4km/h
ホッケンハイムリンク 26回 平均233.3km/h
ハンガロリンク 33回 平均191.7km/h
スパ・フランコルシャン 28回 平均231.9km/h
モンツァ 32回 平均253.1km/h
マリーナ・ベイ市街地 12回 平均177.4km/h
ソチ 7回 平均224.0km/h
鈴鹿 30回 平均224.0km/h
COTA 7回 平均210.4km/h
エルマノス・ロドリゲス 11回 平均203.9km/h
カルロス・パーチェ 28回 平均211.8km/h
ヤス・マリーナ 12回 平均203.5km/h
ニュルブルクリンク 17回 平均208.2km/h
マニ・クール 17回 平均207.3km/h
エンツォ・フェラーリ 21回 平均215.4km/h
インディアナポリス 8回 平均210.6km/h
セパン国際 15回 平均203.6km/h
イスタンブールパーク 7回 平均221.2km/h
28/74サーキット 37.8%
519/1,035戦 50.1%
抽出サーキット平均 212.5km/h
全抽出747戦中、1986年以前が204、さらにウェット路面の予選(と思われる)24を差し引いて、519戦が対象で残りました。ウェットの予選が本当にたったの24しかなかったか、一応ビデオと書籍で確認したのですが、怪しい気がする(笑)
こちらでグラフを再作図すると、なかなか見易い見栄えとなりました。全てのグラフの変化までは追い切れませんが、目立つところをいくつかみていくと、1986年以前までは高速の部類に属していたシルバーストンが1991年にガクンと速度低下しています。これはマシンの性能低下でなく、皆さんお馴染みのマゴッツ、べケッツ、チャペルのS字化やブルックランズ、ルフィールドといったかぎ型のインフィールドセクション設置など、レイアウトの大幅変更によるものです。また逆にモンテカルロ市街地に次ぐ低速サーキットのイメージが色濃いハンガロリンクはNAエンジン統一元年の1989年に飛躍的に速度が増しています。これもレイアウト変更によるもので、速度低下ならぬ「速度向上」を目的としてシケインを廃止したことによります。ほか目立つところとしては先日も書いたように1994年の死亡事故に伴い、マシン側のみならずサーキット側の安全対策が強化されたこともあって、ここで一度各サーキットにおいてガクンと速度が低下されました。死亡事故はレギュレーション変更以上に大きな影響として表れています。
近代の2006年以降は多少の上下はありつつも各サーキットの「位置付け」が比較的明確に表れているようにみえますね。一時期は最速の名を奪われたモンツァは一つ異次元の平均250km/hオーバーの領域でF1最速サーキットに君臨しています。次の250km/h〜200km/hの速度域は層が厚く、緑のシルバーストンやグレーのスパを筆頭にハンガロリンクまでも現在はこのグループに属します。様々なレギュレーション変更や勢力図の移行がありながらも、各サーキットが同じように上昇や降下をする様子はまさしく技術力の対抗というべきでしょうか。現パワーユニットになってからも各サーキットが一様に速度向上をみせているところも興味深いです。
1987年以降の平均速度も同様の棒グラフにしてみました。抽出サーキットが増えたことに併せて86年以前はそう多くなかった平均速度200km/h超えが非常に増えました。平均速度は212.5km/hとなっています。200km/hに満たないのは28サーキット中、モンテカルロ市街地、マリーナ・ベイ市街地、ハンガロリンク、ヴァレンシア市街地の4箇所でした。
《サーキット別平均最高速度ベスト&ワースト10》
1 264.4km/h モンツァ 2020年
2 259.0km/h シルバーストン 1985年
3 256.6km/h エステルライヒリンク 1987年
4 252.2km/h ホッケンハイムリンク 1991年
5 249.0km/h スパ・フランコルシャン 2020年
6 240.1km/h 鈴鹿 2019年
240.1km/h エンツォ・フェラーリ 2020年
8 238.1km/h ポール・リカール 2019年
9 237.2km/h アルバートパーク 2019年
10 230.6km/h ソチ 2020年
230.6km/h カルロス・パーチェ 2018年
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
19 215.5km/h マニ・クール 2004年
20 215.4km/h 上海国際 2019年
21 215.0km/h バクー市街地 2018年
22 214.9km/h インディアナポリス 2004年
23 214.7km/h ハンガロリンク 2020年
24 211.0km/h ヤス・マリーナ 2019年
25 208.5km/h エルマノス・ロドリゲス 1992年
26 201.2km/h ヴァレンシア市街地 2011年
27 189.8km/h マリーナ・ベイ市街地 2018年
28 171.4km/h モンテカルロ市街地 2019年
サーキット別平均速度の最高値の上位と下位の10傑とそのシーズンに着目しました。最速のサーキットとシーズンは先日の「年代別」のまとめで書いたように、昨年のモンツァが歴代のF1の最速ラップとなりました。ただ驚きなのはラップレコードを多く塗り替える中、歴代2番目に1985年のシルバーストン、3番目はエステルライヒリンク最終年の1987年が入っています。どちらも今みるそれらサーキットよりも単純かつ滑らかなコーナーで構成され、さらには今よりもハイパワーなマシンが採用されていた時代です。今では性質がかなり変わりましたが、低ドラッグで森を駆け抜けていた頃のホッケンハイムリンクも上位に来ています。テクニカルなイメージの強い我らの鈴鹿も2019年にサーキット単位でみれば、歴代6番目タイの240.1km/hとなります。幅員が狭くテクニカルで高速となれば、繊細で攻略には難しいサーキットに数えられます。
一方で「遅い方の最速」はやはり市街地サーキットが名を連ねてきます。意外なものとしては2016年にF1の予選瞬間最高速度386km/hを記録したバクー市街地が、一周トータルで評価するとだいぶ下のランクとなりました。予選として結果的に8番手と瞬間的に速いこととポールポジションはまるで異なるものであることを体現しているかのようです。
最後は参考までに各サーキットの平均最高速度と平均最遅速度の速度域をグラフにしてみました。当然といえばそれまでですが、グラフの帯の長いところは多くの時代でさらに様々なレイアウトで行われているため幅の広い速度域を示し、開催回数が少ない程対象も少ないため大きくブレないという結果になりました。シルバーストンは最速259.0km/hに対して最遅が151.1km/hとその差は107.9km/hでした。同じシルバーストンでも全く性質が異なるサーキットにみえてきます。モンテカルロ市街地の速度はある意味F1において規格外です。華やかさや伝統も他のサーキットと比べて規格外か。
《今回の「サーキット単位」の検証の結論》
・モンツァ最速は変わりないが異なる時期もある
・速さの決め手は直線長さより滑らかなコーナー
・レギュレーションのみならずレイアウト変更の影響も大
・鈴鹿も世界的には速いサーキットの部類
「ポールタイムでみる」と題した割には結局速度変換した比較となりました。こうしないと、時代もサーキットも異なる予選を一様に評価できませんでした。もっとあらゆる角度でみればまだまだ違いや特徴は出てきそうですが、取り留めないのも結論に困ってしまいますので、ひとまずこの辺で整理と検証を止めたいと思います(笑)
ひとえに予選の1ラップとはいえど、速さを追求するその中に多くの技術や努力、経験が凝縮されています。また近年は特にスタート位置を決めるこの予選の速さや順位はF1を制する上でとても重要なファクターとなっています。今後も新たなサーキットが生まれ、レイアウト変更され、レギュレーションも変わり、これらの歴史は上書きされていくことと思いますが、新たな記録や感動が生まれることもまた楽しみであり、今後の予選の見方が少し変わったように感じます。
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簡単におさらいをしておくと、毎レース前に行われる予選でポールポジションを獲得したマシンについて、サーキット全長から平均順位を算出、そこから時代やレギュレーションによる変化や最も速い年やサーキットを割り出すというものです。前回は71年の歴史を持つF1においてどのような速度変位があるか、どの年が一番速いのかを割り出しました。今回はサーキット単位でみていくこととし、まずF1制定初年から昨年2020年までの対象サーキットの抽出数と平均速度の平均を列挙します。
《サーキット別抽出数と平均速度》
アルバートパーク 24回 平均220.0km/h
バーレーン国際 16回 平均213.6km/h ◯※
上海国際 16回 平均204.7km/h
ヴァレンシア市街地 5回 平均198.6km/h
バクー市街地 4回 平均213.3km/h
カタロニア 30回 平均212.6km/h ◯
モンテカルロ市街地 66回 平均142.7km/h
ジル・ヴィルヌーブ 40回 平均199.6km/h
ポール・リカール 16回 平均209.4km/h
レッドブルリンク 32回 平均229.8km/h ◯※
シルバーストン 54回 平均218.9km/h ◯※
ホッケンハイムリンク 37回 平均229.0km/h
ハンガロリンク 35回 平均190.0km/h ◯
スパ・フランコルシャン 53回 平均222.0km/h ◯
モンツァ 70回 平均234.7km/h ◯
マリーナ・ベイ市街地 12回 平均177.4km/h
ソチ 7回 平均224.0km/h ◯
鈴鹿 31回 平均223.1km/h
COTA 8回 平均206.5km/h
エルマノス・ロドリゲス 20回 平均187.9km/h
カルロス・パーチェ 37回 平均206.8km/h
ヤス・マリーナ 12回 平均203.5km/h ◯
ニュルブルクリンク 41回 平均184.1km/h ◯
マニ・クール 18回 平均204.4km/h
エンツォ・フェラーリ 28回 平均211.9km/h ◯
インディアナポリス 8回 平均210.6km/h
セパン国際 19回 平均203.6km/h
イスタンブールパーク 8回 平均215.8km/h ◯
28/74サーキット 37.8%
747/1,035戦 72.2%
抽出サーキット全平均 207.1km/h
◯は2020年に開催、追加したデータを含む
※二開催サーキットは速い方のデータを抽出
濃い色の棒グラフは今シーズン2021年に開催予定されているサーキット(上海国際は開催不透明のため、こちらに属する)で薄い色は既に現役から外れているサーキットとなります。上の一覧の◯マークとは異なりますのでご注意下さい。全74ある開催サーキットのうちの対象は28に止まりますが、ポイント対象となる1,035レースのうち747レースがこのグラフに入ってきます。近年まで続くサーキットから抽出していることもあって、グラフの大半は濃い色で示されます。上の一覧は各サーキットの平均速度を例に挙げていますが、これを年毎にグラフ化すると、こんな感じになります。
前回のまとめでも出てきたやつですね。訳がわからないくらいぐちゃぐちゃしてしまいます。さすがにこれでは何が何だかわからないため、1986年と87年の間を境目とし、2つに分けてみていくことにします。
《1986年までのサーキット別抽出数と平均速度》
アルバートパーク 0回
バーレーン国際 0回
上海国際 0回
ヴァレンシア市街地 0回
バクー市街地 0回
カタロニア 0回
モンテカルロ市街地 33回 平均128.8km/h
ジル・ヴィルヌーブ 9回 平均180.5km/h
ポール・リカール 10回 平均205.2km/h
エステルライヒリンク 17回 平均230.5km/h
シルバーストン 20回 平均196.4km/h
ホッケンハイムリンク 10回 平均224.2km/h
ハンガロリンク 1回 平均161.5km/h
スパ・フランコルシャン 21回 平均212.8km/h
モンツァ 36回 平均219.4km/h
マリーナ・ベイ市街地 0回
ソチ 0回
鈴鹿 0回
COTA 0回
エルマノス・ロドリゲス 9回 平均168.4km/h
カルロス・パーチェ 7回 平均192.3km/h
ヤス・マリーナ 0回
ニュルブルクリンク 24回 平均167.0km/h
マニ・クール 0回
エンツォ・フェラーリ 7回 平均201.5km/h
インディアナポリス 0回
セパン国際 0回
イスタンブールパーク 0回
13/74サーキット 17.6%
204/1,035戦 19.3%
抽出サーキット平均 191.4km/h
こちらが1986年以前の抽出したサーキットのデータ数と平均速度の平均になります。対象はガクンと減り204になっています。71年の歴史のほぼ半分にあたるこの時代は1シーズンのレース開催数が少ないこともありますが、今回の抽出対象外としているGPやサーキットも多くあるため、精度としては後半のグループよりも悪くなります。「平均速度の平均」は191.4km/hと200km/hに達しません。F1には違いないんだけど、今の時代のF1とは感じが違うように感じますよね。内訳をグラフ化したものを見てみましょう。
対象は13サーキットということで、先程のぐちゃぐちゃグラフよりはだいぶ見易くなりました。サーキット毎に色の塗り分けをしていますので、この量なら追い切れると思います。全体的に右肩上がりのグラフになっています。グラフの下を一人這うのは茶色のモンテカルロ市街地です。非常にわかりやすい。ただ常に最低速サーキットに君臨し、幾度となくレイアウトを変えつつも様々なマシンレギュレーションに左右されず右肩上がりに速度向上している様は「マシンの性能向上の賜物」と言っていいでしょう。
速度上位のサーキットをみてみると、黄色のモンツァがF1創成期から高速の部類に位置しているものの、それに沿う形で薄いグレーも続いています。当時市街地サーキットに位置付けられたスパです。今の第2セクターのようなサーキット専用区間を走らず、南部の市街地を駆け抜けていた頃はバンピーながら線形がよかったため、平均速度は高めとなっています。スパの旧レイアウトが廃止され、さらにはモンツァにシケインが設けられた1970年代に入ると、それに代わって緑色のシルバーストンや紺色のエステルライヒリンク(現 レッドブルリンク)、水色のホッケンハイムリンクが高速サーキットとして名乗りを上げてきました。時期はちょうどF1での死亡事故が取り沙汰され、徐々に安全への配慮が始まった頃と重なります。ただ、危険サーキットの廃止やシケインなどで安全への配慮をしながらも、速さを求める技術向上も相まって、1980年代に入る頃は一度失った速度を戻すような「いたちごっこ」が始まることとなりました。ルノーに端を発するターボエンジンを搭載する80年代前半までにはシルバーストンやエステルライヒリンクにおいて平均速度は260km/h近くに達しています。
サーキット単位で平均速度をグラフ化しました。この時代はエステルライヒリンクが平均230.5km/hで最も速い値となり、2番目はホッケンハイムリンクの平均224.2km/h、3番目がモンツァの平均219.4km/hとなり、ほかスパ、ポール・リカール、エンツォ・フェラーリ(イモラ)までが平均200km/hオーバーという結果でした。起伏がある上に速いエステルライヒリンクが危険とされた理由がよくわかります。また最近復活したポール・リカールもミストラルストレートにシケインの無かった時代で平均速度は高めに出ています。なお、この時代の抽出サーキットの平均速度は191.4km/hとなっています。
《1987年以降の平均速度変遷》
ここからは日本でも全戦F1中継が始まった比較的近代の1987年以降をみていく訳ですが、まずは正直ベースのグラフをご覧下さい。
ここからシーズンのレース数も数を増し、対象(抽出した)サーキット数が増えるため、パワーユニットが切り替わる2005年と06年に境目を入れて表現しましたが、、ぐちゃぐちゃ過ぎて訳がわかりません。数以上に悪さをしているのは「ウェットによる平均速度の落ち込み」です。これじゃあ知りたいことが何も入ってこないため、1987年以降のわかる範囲でウェット路面の予選も対象から外すようにしました。
《ウェットを除く1987年以降の抽出数と平均速度》
アルバートパーク 23回 平均221.7km/h
バーレーン国際 16回 平均213.6km/h
上海国際 14回 平均208.2km/h
ヴァレンシア市街地 5回 平均198.6km/h
バクー市街地 4回 平均213.3km/h
カタロニア 30回 平均212.6km/h
モンテカルロ市街地 33回 平均156.6km/h
ジル・ヴィルヌーブ 30回 平均205.9km/h
ポール・リカール 6回 平均216.5km/h
レッドブルリンク 14回 平均232.9km/h
シルバーストン 33回 平均233.4km/h
ホッケンハイムリンク 26回 平均233.3km/h
ハンガロリンク 33回 平均191.7km/h
スパ・フランコルシャン 28回 平均231.9km/h
モンツァ 32回 平均253.1km/h
マリーナ・ベイ市街地 12回 平均177.4km/h
ソチ 7回 平均224.0km/h
鈴鹿 30回 平均224.0km/h
COTA 7回 平均210.4km/h
エルマノス・ロドリゲス 11回 平均203.9km/h
カルロス・パーチェ 28回 平均211.8km/h
ヤス・マリーナ 12回 平均203.5km/h
ニュルブルクリンク 17回 平均208.2km/h
マニ・クール 17回 平均207.3km/h
エンツォ・フェラーリ 21回 平均215.4km/h
インディアナポリス 8回 平均210.6km/h
セパン国際 15回 平均203.6km/h
イスタンブールパーク 7回 平均221.2km/h
28/74サーキット 37.8%
519/1,035戦 50.1%
抽出サーキット平均 212.5km/h
全抽出747戦中、1986年以前が204、さらにウェット路面の予選(と思われる)24を差し引いて、519戦が対象で残りました。ウェットの予選が本当にたったの24しかなかったか、一応ビデオと書籍で確認したのですが、怪しい気がする(笑)
こちらでグラフを再作図すると、なかなか見易い見栄えとなりました。全てのグラフの変化までは追い切れませんが、目立つところをいくつかみていくと、1986年以前までは高速の部類に属していたシルバーストンが1991年にガクンと速度低下しています。これはマシンの性能低下でなく、皆さんお馴染みのマゴッツ、べケッツ、チャペルのS字化やブルックランズ、ルフィールドといったかぎ型のインフィールドセクション設置など、レイアウトの大幅変更によるものです。また逆にモンテカルロ市街地に次ぐ低速サーキットのイメージが色濃いハンガロリンクはNAエンジン統一元年の1989年に飛躍的に速度が増しています。これもレイアウト変更によるもので、速度低下ならぬ「速度向上」を目的としてシケインを廃止したことによります。ほか目立つところとしては先日も書いたように1994年の死亡事故に伴い、マシン側のみならずサーキット側の安全対策が強化されたこともあって、ここで一度各サーキットにおいてガクンと速度が低下されました。死亡事故はレギュレーション変更以上に大きな影響として表れています。
近代の2006年以降は多少の上下はありつつも各サーキットの「位置付け」が比較的明確に表れているようにみえますね。一時期は最速の名を奪われたモンツァは一つ異次元の平均250km/hオーバーの領域でF1最速サーキットに君臨しています。次の250km/h〜200km/hの速度域は層が厚く、緑のシルバーストンやグレーのスパを筆頭にハンガロリンクまでも現在はこのグループに属します。様々なレギュレーション変更や勢力図の移行がありながらも、各サーキットが同じように上昇や降下をする様子はまさしく技術力の対抗というべきでしょうか。現パワーユニットになってからも各サーキットが一様に速度向上をみせているところも興味深いです。
1987年以降の平均速度も同様の棒グラフにしてみました。抽出サーキットが増えたことに併せて86年以前はそう多くなかった平均速度200km/h超えが非常に増えました。平均速度は212.5km/hとなっています。200km/hに満たないのは28サーキット中、モンテカルロ市街地、マリーナ・ベイ市街地、ハンガロリンク、ヴァレンシア市街地の4箇所でした。
《サーキット別平均最高速度ベスト&ワースト10》
1 264.4km/h モンツァ 2020年
2 259.0km/h シルバーストン 1985年
3 256.6km/h エステルライヒリンク 1987年
4 252.2km/h ホッケンハイムリンク 1991年
5 249.0km/h スパ・フランコルシャン 2020年
6 240.1km/h 鈴鹿 2019年
240.1km/h エンツォ・フェラーリ 2020年
8 238.1km/h ポール・リカール 2019年
9 237.2km/h アルバートパーク 2019年
10 230.6km/h ソチ 2020年
230.6km/h カルロス・パーチェ 2018年
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19 215.5km/h マニ・クール 2004年
20 215.4km/h 上海国際 2019年
21 215.0km/h バクー市街地 2018年
22 214.9km/h インディアナポリス 2004年
23 214.7km/h ハンガロリンク 2020年
24 211.0km/h ヤス・マリーナ 2019年
25 208.5km/h エルマノス・ロドリゲス 1992年
26 201.2km/h ヴァレンシア市街地 2011年
27 189.8km/h マリーナ・ベイ市街地 2018年
28 171.4km/h モンテカルロ市街地 2019年
サーキット別平均速度の最高値の上位と下位の10傑とそのシーズンに着目しました。最速のサーキットとシーズンは先日の「年代別」のまとめで書いたように、昨年のモンツァが歴代のF1の最速ラップとなりました。ただ驚きなのはラップレコードを多く塗り替える中、歴代2番目に1985年のシルバーストン、3番目はエステルライヒリンク最終年の1987年が入っています。どちらも今みるそれらサーキットよりも単純かつ滑らかなコーナーで構成され、さらには今よりもハイパワーなマシンが採用されていた時代です。今では性質がかなり変わりましたが、低ドラッグで森を駆け抜けていた頃のホッケンハイムリンクも上位に来ています。テクニカルなイメージの強い我らの鈴鹿も2019年にサーキット単位でみれば、歴代6番目タイの240.1km/hとなります。幅員が狭くテクニカルで高速となれば、繊細で攻略には難しいサーキットに数えられます。
一方で「遅い方の最速」はやはり市街地サーキットが名を連ねてきます。意外なものとしては2016年にF1の予選瞬間最高速度386km/hを記録したバクー市街地が、一周トータルで評価するとだいぶ下のランクとなりました。予選として結果的に8番手と瞬間的に速いこととポールポジションはまるで異なるものであることを体現しているかのようです。
最後は参考までに各サーキットの平均最高速度と平均最遅速度の速度域をグラフにしてみました。当然といえばそれまでですが、グラフの帯の長いところは多くの時代でさらに様々なレイアウトで行われているため幅の広い速度域を示し、開催回数が少ない程対象も少ないため大きくブレないという結果になりました。シルバーストンは最速259.0km/hに対して最遅が151.1km/hとその差は107.9km/hでした。同じシルバーストンでも全く性質が異なるサーキットにみえてきます。モンテカルロ市街地の速度はある意味F1において規格外です。華やかさや伝統も他のサーキットと比べて規格外か。
《今回の「サーキット単位」の検証の結論》
・モンツァ最速は変わりないが異なる時期もある
・速さの決め手は直線長さより滑らかなコーナー
・レギュレーションのみならずレイアウト変更の影響も大
・鈴鹿も世界的には速いサーキットの部類
「ポールタイムでみる」と題した割には結局速度変換した比較となりました。こうしないと、時代もサーキットも異なる予選を一様に評価できませんでした。もっとあらゆる角度でみればまだまだ違いや特徴は出てきそうですが、取り留めないのも結論に困ってしまいますので、ひとまずこの辺で整理と検証を止めたいと思います(笑)
ひとえに予選の1ラップとはいえど、速さを追求するその中に多くの技術や努力、経験が凝縮されています。また近年は特にスタート位置を決めるこの予選の速さや順位はF1を制する上でとても重要なファクターとなっています。今後も新たなサーキットが生まれ、レイアウト変更され、レギュレーションも変わり、これらの歴史は上書きされていくことと思いますが、新たな記録や感動が生まれることもまた楽しみであり、今後の予選の見方が少し変わったように感じます。
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