このネタは比較的優秀な成績をおさめたマシンを優先に取り上げてきましたが、今回は見た目のインパクト抜群な「迷車」の方を選びました。以前は四強と数えられた名門も近年めっきり優勝争いから離れて、若手育成よりも金策に忙しいウィリアムズ。2004年型のFW26です。近年では珍しい「2つの顔を持つ」マシンです。
《設計》
パトリック・ヘッド
サム・マイケル
ギャビン・フィッシャー
アントニア・テルッツィ
《外見》
なんと言っても絶大インパクトのこのノーズ。ノーズって感じがしません。今流行りのあのお決まりノーズとこちらと、どちらがいいですか?今は概ね各車横並びですが、このシーズンでこんなデザインを採用したのはココだけです。短くて太いノーズ、いわゆる「セイウチノーズ」と呼ばれたものです。
ノーズコーンは車体で最も前方に位置し「空気を切り裂きやすい」形状を採ります。新幹線や戦闘機など高速度域になればなるほど鋭利になります。それはF1マシンも同じで、ライバルであるマクラーレンの同時期2004年MP4-19は
こんなに細いノーズでした。なのにウィリアムズは逆にどうして太く扁平で短い形状を採ったのか。理由が2つあります。 1つ目にF1マシンは「クラッシャブルストラクチャー」(衝撃吸収構造)とする必要があります。正面からの衝撃に対して、ガチガチに頑張って形を留めておくのではなく、わざと壊れやすくして衝撃を吸収してドライバーの命を守らなければなりません。市販車と同じく、サバイバル・セルと呼ばれるモノコック部分を潰さないようにしてあげます。ノーズは細い方が抵抗が小さくなりますが、必要強度を保つためには、ある程度素材を厚く、頑丈にする必要があって、そうなれば重量も増えてしまうという弊害を産みます。それを避けるために、必ずしも細くするのではなく、太くして必要強度を確保する方法を採ったわけです。2つ目は以前にあったグラウンドエフェクトカーと同様に「フロアの流速、流量増加からダウンフォースを得る」目的もありました。ノーズを扁平で高い位置にすることでフロアへ気流を誘導したかったのです。他チームとは異なる思想を採り入れた結果、あのような形状のノーズとなりました。ウィリアムズは当時も今もボディカラーは白が基調ですから、より大きい存在感、ディープインパクトに繋がっていたと思います。
大きく口を開けた先に立ちはだかるキールは中央部分の障害を少しでも排除すべく「ツインキール」としてその気流を損ねることなくフロアに導きます。
ただし、それら奇抜なフロントセクションは長続きせず、第13戦ハンガリーGPからよくある一般的なノーズコーンに吊り下げフロントウィングに変更されて、残り6戦を戦うことになります。フロントウィングの形状も中央が下がる形を採りました。
F1には様々なメーカーと国のエンジンが名を連ねる中で、BMWやメルセデスなどドイツのメーカーは今でもパワーで一枚上手ですよね。ほかフランス、アメリカそして日本などのメーカーにはない特徴だと思います。そのパワーがウリのBMWエンジンですが、痛手として2004年のレギュレーションである「1GPで1エンジン」に対して、信頼性確保のための若干のパワーダウンと重量増を強いられてしまいました。
以前に書いた「BMWザウバー」同様にBMWのエンジンを積むとノーズにキドニーグリルを彷彿とさせるカラーリングとなります。白を基調に紺とシルバーの境界線が入ります。個人的には渋くて好きです。歴代のウィリアムズは全般的に好みです。スポンサーの冠はBMW、サイドポンツーンにヒューレッドパッカードのhpがデカデカと入ります。他は今とは違う酒造メーカーのバドワイザー、ドイツの金融機関であるアリアンツなどです。一昔前は様々なスポンサーがついていました。
《エンジン》
BMW P84
V型10気筒・バンク角90度
排気量:2,998cc(推定)
最高回転数:19,000rpm(推定)
最大馬力:940馬力(推定)
スパークプラグ:チャンピオン
燃料・潤滑油:ペトロブラス・カストロール
《シャシー》
全長: - mm
全幅: - mm
全高: - mm
最低車体重量:600kg(ドライバー含む)
燃料タンク容量: - ℓ
クラッチ:AP
ブレーキキャリパー:カーボンインダストリー
ブレーキディスク:AP
ブレーキパッド:カーボンインダストリー
ホイール:OZ
サスペンション:フロント プッシュロッド
                                 リヤ    プッシュロッド
タイヤ:ミシュラン
《ドライバー》
No.3 ファン・パブロ・モントーヤ(全戦)
No.4 ラルフ・シューマッハ(第1〜9,16〜18戦)
         マルク・ジェネ(第10,11戦)
         アントニオ・ピッツォニア(第12〜16戦)

《戦績》
88ポイント コンストラクター4位
(1位1回、2位2回、3位1回、4位3回ほか)
ポールポジション1回

M・シューマッハにも敵意むき出しモントーヤとそれの弟R・シューマッハの「仲良し」(笑)コンビは4年目になります。戦績からみると2001年のFW23は4勝でコンストラクター3位、2002年FW24が1勝のコンストラクター2位、2003年のFW25は4勝でコンストラクター2位となり、今回のFW26が見劣りしてしまいます。勝つのはあのフロントマスクだけ。だから敢えて選びました(他のはまたいつかの機会でやりましょう)
大きなライバルなき連覇を続けるM・シューマッハに対して、ウィリアムズは毎年のように撃退最有力とされても、なかなかそれに至らないシーズンが続いてしまっています。2004年も序盤は第2戦マレーシアGPでモントーヤが2位、第4戦サンマリノGPもモントーヤの3位が精一杯で、なかなか「弟」が空回りで進行していきます。
第7戦ニュルブルクリンクによるヨーロッパGPでは「仲良く」同士討ち、続く第8戦カナダGPでは予選でようやくR・シューマッハがポールポジションを獲得し、モントーヤは4番手とパワーサーキットで開花すると思われましたが、R・シューマッハは決勝2位、モントーヤは4位からトヨタ2台と共に「ブレーキダクト寸法違反」なる失格を受けてしまいます。さらには第9戦アメリカGPではR・シューマッハがインディアナポリスのターン13でクラッシュ、モントーヤは代車使用が違反とされてまたもや失格。「マシンに負けない無様な内容」を立て続けるなど、完全に「負のループ」に入り込んでます(ちなみに翌2005年にトヨタへ移籍したR・シューマッハは同じターン13でまた派手なクラッシュをし「ミシュランボイコット」を招いています)
クラッシュから代走として格下のジェネやピッツォニア起用では当然成績は向上できず、第13戦でとうとうシンボリックな「セイウチノーズ」と決別、遅ればせながらの後期型導入に至りました。その後は復帰したR・シューマッハが第17戦日本GPで自身のシーズン唯一の2位表彰台、そして最終戦ブラジルGPでようやくモントーヤが優勝と、ポールポジション1回、優勝1回、失格は2回でコンストラクターズ4位に陥落するという名門にして散々なシーズンを送っています。
以前に何回か書いている通り、ウィリアムズといえばプライベーターながら1980年代を席巻した四天王全員が唯一ドライブしているという人気チームであり、エポックメーキングな技術やマシン革命、若手育成に長けるなど、F1の歴史にはなくてはならない存在として現在も君臨しています。見た目のインパクトはありますが、セイウチノーズもまんざら無茶苦茶な思想から生み出されたものでもなく「何か変えたい」という発想の転換から「成熟する前」に出してしまった苦肉の策とも言え、限られた範囲内からの一か八かの賭けに出たことは、賞賛に値すると思います。今のF1はこの当時よりもがんじがらめですから、ドライバー側、チーム側が少し工夫やチャレンジしたくらいでは変わらない、変えられない辞世となっています。名車ではない「ダサいけど前衛的に頑張ったで車」でした。
それにしても今のこのノーズ、なんとかならんかねぇ、なんて思い続けて、不思議と見慣れてしまいました。慣れとは、恐ろしい。