今シーズン初となるレース前の「過去のレース」です。近年はエンジンの排気量を小さくし、ターボと電気エネルギーを使ったハイブリッドのF1が定着しています。今まではここまで小さく、また複雑なパワーユニットを使ってきませんでしたが、この状態に至るまで様々なレギュレーション変更と技術のせめぎ合いがありました。今回はパワーとしてはイケイケどんどんの時代、1985年第3戦サンマリノGPをみていきます。1985年のレースは3戦目、サンマリノGPのレースは4回目です。サンマリノGPとはいえ、イタリア国内でフェラーリのファクトリーから近いため、サーキットには赤い旗が各所でたなびいています。
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ルノーワークスが初めてターボチャージャーを導入してから、F1界では瞬く間に流行り、各チームが追従していきました。エンジンの排気量を大きくせず、大出力を生み出せることが特徴のターボは一見いいことづくめのパーツのようですが、もちろんデメリットもあります。このレースはそんなデメリットが露呈したわかりやすい例だと思います。この時代は現代と同じく、レース中の再給油は禁止です。さらに前年84年に規定された「ターボエンジン搭載車の燃料は最大で220ℓまで」とされていました。ターボエンジンはNAエンジンよりも高出力を得られますが、その分燃料の使用量も多くなります。再給油無しで悪燃費、最大搭載量にも制限があるため、むやみにフル稼働させるとレースを完走できないということに繋がってしまいます。
このシーズンは第3戦までにマクラーレンを駆るプロストが開幕戦ブラジルGPを制し、第2戦はロータスの若手セナが優勝を挙げて1勝ずつとなっています。しかし、両者ともリタイヤが一つずつあり、2戦連続で2位を獲得するフェラーリのアルボレートにとってもいい流れで地元レースを迎えています。

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ポールポジションは第2戦ポルトガルGPでポールトゥウィンを果たして波に乗るセナが獲得。2番手はウィリアムズ・ホンダのロズベルグ、3番手にはセナの相方であるデ・アンジェリスがつけました。フェラーリの期待を背負うアルボレートは4番手、前年は0.5ポイントに泣いたプロストは6番手となっています。

《予選結果》
 1 A・セナ      (ロータス・R・GY)
 2 K・ロズベルグ   (ウィリアムズ・H・GY)
 3 E・デ・アンジェリス(ロータス・R・GY)
 ※GYはグッドイヤー

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2番手ロズベルグはスタートで失敗。ロータスのイケメンコンビがワンツー体制を築いていきます。
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ただ10周目に2位走行のアンジェリスはターボ不調によりペースを保ち続けることができず、アルボレート、プロストに先行を許す形となります。

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23周目に入ると、地元期待のこれまた2位走行のアルボレートが電気系トラブルにより緊急ピットインし、そのままリタイヤ。ティフォシが一瞬凍りつく。
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アルボレートが脱落しても、チームメイトのヨハンソンが予選15番手からアンジェリス、プロストを捕まえて2位に浮上。ティフォシ目が再び輝き始めます。
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セナとヨハンソンの一騎打ち。逃げ逃げポールトゥウィンを思わせたセナですが、思わぬ刺客に追われる形となっています。
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セナが残り4周でガス欠を懸念してペースダウン。ヨハンソンがいよいよトップへ!このレースはこれでは済みませんでした。下位スタートからハイペースで追ったヨハンソンもガス欠が予想されてペースを落とさざるを得ない。
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最後の最後で予めペースダウン走行をしていたプロストが逆転。F1とは要は決勝で「勝ちゃあいい」
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3位のアロウズのブーツェンはフィニッシュ直前でガス欠。手押しでチェッカーを受けました。
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そんなプロストもウィニングランでとうとうガス欠。パルクフェルメまでマシンを戻すことができていません。ガス欠&低燃費走行が思わぬドラマをいくつも生み出しています。

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《決勝結果》
 1 A・プロスト    (マクラーレン・TP・GY)
 2 E・デ・アンジェリス(ロータス・R・GY)
 3 T・ブーツェン   (アロウズ・B・GY)

 ※TPはタグポルシェ、BはBMW

賢いプロストが最後の最後で真っ先にチェッカーフラッグをうけて表彰式となりましたが、最後にオチがありました。何とプロストのマシンはレース後の車検で最低重量を2kg下回っていたことが判明。軽ければ当然燃費にも関係していますし、レギュレーション違反ということで失格。2位表彰台のアンジェリスが繰り上げ優勝、さらに4位で終えたルノーのタンベイが3位繰り上げで幕が下りました。将来の期待も高かったアンジェリスはこのシーズン限りでロータスと決別、名門ブラバムに移籍を果たしますが、このレースから一年後の86年5月のポールリカール合同テストでのクラッシュが起因してこの世を去ったため、これが最終優勝ということになります。

《最終結果》
失格 A・プロスト    (マクラーレン・TP・GY)
   1 E・デ・アンジェリス(ロータス・R・GY)
   2 T・ブーツェン   (アロウズ・B・GY)
   3 P・タンベイ    (ルノー・R・GY)

低燃費走行は再給油禁止である今日にも相通ずるものがあります。確かに出力の面ではこの当時の方が高く、ドライビングもマニュアルでありあたかも「F1という生き物と対話しながら操る」といった印象が色濃く出ていました。驚くのはこの当時と同じレーストータルで300km超を約半分の110kgの燃料使用量でこなし、さらにはラップタイムはだいぶ速いこと。それもこれも技術の進化であり、緻密な戦略の賜物といえます。

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