第2戦までまだ時間があります。連戦はやる側も観る側も忙しいものですが、今回のように3週間も間隔が空くと「本当に開幕したんだよな?」という錯覚に陥り、気が緩んでしまいますね。先日から準備していた新企画を差し込もうかと思ったのですが、思うようにネタがまとまらなかったため後回しにし、別のものを急遽やって「時間稼ぎ」しちゃいます。
今シーズンは昨シーズンから大幅なマシンレギュレーション変更はなく、多くのチームが限られた数の「トークン」を必要なセクションに充て、前年の改良版として臨んでいます。大きな変更無しと言われつつも、ダウンフォース低下を目的とした「フロア面積の縮小」という内容が盛り込まれたことにより、それに翻弄され、昨シーズンの勢力図や速さそのままというわけにもいかないことがわかりました。どこにどのような影響を及ぼしたのか、たった1戦終えただけの状況ではありますが、前年のデータと比較してみていきたいと思います。


フロア(マシン底部)の面積を縮小すると、マシンと路面の間を綺麗に流れる気流がリヤセクションに到達する前に剥離し、ダウンフォースレベルが低下してしまいます。特に今回縮小された範囲が後輪前部のエリアとなるため、駆動力を路面に伝え、コーナリング時の安定性に重要なリヤセクションのレベルが失われることとなります。まずは単純に「どのくらい速度が落ちたのか」みてみます。

《スピードトラップ比較》
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こちらは昨年11月に行われた第15戦バーレーンGP予選におけるスピードトラップ通過時の速度になります。チームによらず、速度順に掲載しました。バーレーン国際サーキットのスピードトラップはメインストレートエンドに設置されています。最速は速さに定評があったルノーのリカルドによる328.0km/hとなりました。2位も同じくルノーのオコンが続き、翌年迎える「アルピーヌ」を前に最後の奮闘をみせています。グラフには参考までに予選順位を記載しました。ポールポジションはCOVID-19感染前(もうこの時から潜伏していた?)メルセデスのハミルトンがレコードタイムを更新する形で獲得しましたね。速度をみると何と下から数えたほうが早い20人中17番目にあたる319.9km/hでした。最速のリカルドと比較すると、18km/hも速度差がありました。タイムは逆に1.155秒もハミルトンが速かったということで、F1はつくづく「速度が速いだけでは何の意味もなさない」ことを知らしめられますね。ちなみにフェルスタッペンは速度最下位317.4km/hで予選3番手、ドライバー20人の平均は322.9km/hでした。
昨年2020年の話はこのくらいにして、続いては先日3月中旬に行われた2021年開幕戦の予選と比較してみます。こちらも予選順位を追記していますので、参考までにご覧下さい。

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2020年と同じ尺度でグラフを作ったわけですが、全体的にだいぶ山が低くなりました。シーズンは違えど、間隔としては1年も空くことなくたかだか4ヶ月足らず、スピードトラップの位置も変更無し、ということはその低い分、今シーズンのレギュレーションによって速度低下がみられたということになります。
先程のグラフを見た後となると若干物足りなさも感じてしまいますが、2021年バーレーンGPのスピードトラップ最速は新生アストンマーティンに移籍したばかりのベッテルによる323.1km/hです。4ヶ月前の昨シーズンの平均値程度となっています。2位はベッテルと因縁のあるハースの新人マゼピンの320.9km/hであり、3位の角田くん以下に差をつけています。さっきも書いた通り、単にスピードトラップが速けりゃいいというわけではない(笑)角田くんやガスリーのアルファタウリ勢やウィリアムズの2人も速度的には上位ですね。ちょっと興味深いのは「速度の上位は予選で比較的下位に多い」点です。理由を色々考えたものの結論に至らず。ただチームの偏りをみていると、マシンの特性やセッティングの方向性によっているのかなと想像します。近年のF1マシンは直線の速さよりも「コーナーでいかにロスせず安定して走り抜けられるか」がタイムを削るカギとなっています。上位のチームは下位に比べてそのあたりの技術や工夫が機能しているということでしょうか。
もう一度最速のベッテルに注目すると、その速度は前年最速のリカルドと比べて4.9km/hの低下。平均値の比較は前年322.9km/hに対して315.5km/hで7.4km/hの低下となっており、ダウンフォース量10%低下を狙っていたことを考えると、直接速度に関してはそこまで大きな低下は示しませんでした。
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こちらはその2つのスピードトラップの差を示したものです。20人のドライバーのうち、4人がマシンを降り、4人が加入し、さらに4人のチーム移籍がありました。シート喪失と新加入の方については比較のしようがありませんので除外し、移籍に4人については気持ち悪いグラデーション表記として目立つようにしています。よって、昨シーズンと今シーズンをちゃんと比較できるのは20人のうち12人(チームカラー単色で表現)にまで絞られてしまいます。昨シーズンより今シーズンが速い場合は0より上向きにグラフが伸び、速度低下したものは下向きのマイナスで表現しました。
ただ1人、気持ち悪い色でプラスを示す異端児がいますが、それ以外についてはポールシッターもチャンピオンもマイナス側となりました。ベッテルはこんなところでも目立ってしまって、、。確かに昨シーズンまでのマシンに比べたら、今乗るマシンの方がパワーにおいて有利でしょうか。グラデーションとなる移籍組の速度差は大きく出たものの、それを除くとアルピーヌと名を変えつつ実質ルノーのオコンが最大値の-11.7km/hの低下。ほかフェラーリパワーユニットを搭載するルクレールが-9.5km/h。アルファロメオのライコネン、メルセデスパワーユニットを搭載するウィリアムズのラッセルが揃って-8.8km/hとなっています。チームこそ変わりませんがパワーユニット変更のあったマクラーレンのノリスも大きな低下量を示してはいますが、除外対象でいい気がします。ルノー系、フェラーリ系、そしてメルセデス系も各チームのシャシーに載せると大なり小なり速度低下を伴っています。こうしてみると、純粋なサンプル数は2人に絞られますが、ホンダパワーユニットはガスリーが-5.5km/h、フェルスタッペンは-3.8km/hに止めています。この結果がホンダ系2チームの今シーズンに強みになるのではないかとささやかに期待しています。

《最速タイム比較》
続いて予選時の最速タイムを比較したいと思います。今回は昨シーズンのコンストラクターランキング順に並べてグラフを作成しています。昨シーズンの第15戦バーレーンGP予選はこのような見栄えになります。
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長い方がタイムが遅いことになります。左からポールシッターでありチャンピオンのハミルトンからはじまり、自ずと右に向かうにつれてグラフが長く、タイムが遅くなっていく順列となっています。昨シーズンのバーレーンGPはシーズン終盤で概ねコンストラクターズランキングに近い形で予選順位も決まりつつありました。赤字のポールシッターであるハミルトンはバーレーン国際サーキットにおけるレコードタイムとなる1分27秒264で走破し、全車の平均値は1分28秒825となりました。ちょうどQ1を2番手通過したレーシングポイントのストロールが記録した1分28秒679がニアリーです。予めのお断りとなりますが、これらタイムは予選の「最終タイム」ではなく「予選中に記録された最速タイム」を採用しているため、ストロールはQ2に進出し12番手に終わったものの、Q1のタイムの方が速いため、そちらを採用しています。グラフの範囲に対して各タイムが低い位置に止まっています。これはこの後出てくる先日の開幕戦のタイムにグラフを合わせたためです。
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こちらが先日の開幕戦の予選タイムになります。尺度を合わせたため先程はあのような見栄えとなったわけですが、各車タイムが落ち、範囲いっぱいを使う形となりました。速度編の時も書いたように、たった4ヶ月でここまでタイムに変化が起きました。速度然りタイムについても、フロアの面積縮小以外にもタイヤの構造変更、さらには気温、路面温度や状況を加味する必要があります。ただmiyabikunはそれらを補正する術がないため、今回はそれらを無視して純粋なタイムだけ使って比較検討しました。タイヤコンパウンドについては概ね同じC4ソフトタイヤでの記録となります。
昨年のコンストラクターランキングと似通った勢力図が予想されつつも、少し変化がみられそうですね。平均値は破線の1分30秒709と出ました。そこからみると、中団に位置するアストンマーティンやアルピーヌに遅れがみられ、逆にフェラーリやアルファタウリが2台ともその水準を下回ってきました。タイム的にはアルファロメオもその2チームに近付いています。また昨年は各チームともチームメイトとの差は大きく表れていませんでしたが、今年のグラフはまだまとまりがない感じ。移籍組はまだ初戦ということもあって仕方無しか。一方でメルセデス、マクラーレン、フェラーリはチームメイト同士で近い位置につけています。
ポールポジションはフェルスタッペンの1分28秒997でした。これは昨年自身が記録した3番手タイムから1.319秒も遅く、10番手のクビアトを下回りQ2突破ギリギリのライン。タイム低下率は1.5%となります。リヤセクションに注力した改良を施したレッドブルですが、レギュレーションの影響を完全に埋めるには至っていません。
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速度編と同様に昨年と比較可能なドライバーについて、タイム差を割り出しています。移籍組を含め16人全員が昨年のタイムを下回り、プラスで上向きのグラフとなりました。平均値は+1.766秒となっています。そこから倍近く遅れを出してしまったアルピーヌのオコンによる+3.305秒が非常に目立ちます。ご存知の通りチームメイトはチャンピオン経験者とはいえ久し振りの本戦復帰を果たしたアロンソがQ3に進出する好走をみせました。アロンソとの差を埋め、さらには上回る走りをしないと、将来自分の首を絞めることにつながりますから、次戦以降は期待したいですね。またフェルスタッペンのポールポジション獲得の裏側にはチャンピオンチームであるメルセデスの苦戦もだいぶ手助けになりました。ハミルトン、ボッタスともに平均値を上回り、昨シーズンから2秒以上の遅れとなりました。噂にあるようにレーキ角の問題もあってか、フロアに関するレギュレーションとのマッチングがうまくいっていない様子がうかがえます。それと合わせて期待大とされたアストンマーティンは移籍組でアタックを妨害されたベッテルを除いたとしても、ストロールの位置も心配です。一回のミスで勢力図の入れ替わりを伴う中団ですから、シーズンの早い段階で改善する必要が露呈されました。
そんな中健闘したのはフェラーリ2台でルクレールは当然ながらマクラーレンからの移籍となったサインツに関しても、トップチームのメルセデスやレッドブルよりも遅れを最小限に食い止めることに成功しています。フェラーリが予選から好位置と言われた所以です。昨年までのパワー不足に悩まされた酷いマシンですから、その伸び代はライバルに比べて大きいですね。ドライバーだけでなく、マシンのネガティブさを打ち消し立て直して今後の更なる比較が期待できそうです。またリカルドの移籍だけでなくパワーユニット変更を伴ったマクラーレンもノリスとリカルドの差は小さく、平均値よりも低く表れており、開幕戦はひとまず成功したといえます。

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《セクター別比較》
最後はより細かく、昨年ポールを獲得したハミルトンと今年ポールポジションを獲得した頂上決戦を「3つのセクター毎」まで掘り下げてみます。各セクターはいつもの手作りサーキットレイアウトを参考に、セクター1は黄、セクター2が赤、セクター3は青で分けてみました。
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これも初めは2020年のデータから。
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秒単位のグラフで差が微小でグラフのバーだけで視覚的には判断しにくいため、バーの中の数字を参照下さい。上段がポールシッターのハミルトン、2段目が比較対象のフェルスタッペンとなります。昨年は全てのセクターでフェルスタッペンをハミルトンが上回り、特にパワーセクターであるセクター3で0.206秒もの差を築いていました。
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ところが今シーズンの開幕戦予選は立場が逆転してフェルスタッペンがハミルトンを全セクターにおいて上回ることに成功しています。昨年大きな差がついたセクター3は0.003秒上回り、さらにはインフィールドのセクター2で0.228秒の差を強みにポールポジションを獲得しています。セクター1や3はパワーユニットの出力やレスダウンフォースでカバーできますが、中低速コーナーで構成されたセクター2は逆に適切なダウンフォースやコーナリング時の安定性を求められますので、その観点からいくとメルセデスのマシンよりかはレッドブルの方が現レギュレーションに即した改良ができていることが証明されます。
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最後はハミルトンとフェルスタッペンそれぞれの各セクターにおけるタイム差をグラフ化しています。ハミルトン、フェルスタッペンとも各セクターで昨年よりもタイムが伸びてしまっているわけですが、ハミルトンは昨年と比べてセクター2で0.742秒も遅れが目立ちます。一方フェルスタッペンはセクター1での遅れが大きかったものの、セクター2の遅れはハミルトンより小さく抑えられたのが特徴的です。また全てのセクターにおいてハミルトンよりもフェルスタッペンの方が遅れを小さく止めたのが予選の決め手となり、0.4秒近く上回る結果となりました。

《まとめ》
バーレーン国際サーキットたった一つの比較ではありますが、現レギュレーションはストレートスピードに合わせてコーナリングスピードも落とすことに成功したといえます(スピードやタイムが落ちることが率直に嬉しいことと直結はしませんが)結果的には改良を読み違えたり、開発途上であると、その時点で出遅れ、それが運良くもメルセデス独走に待ったをかけるような状況となりました。レースはメルセデスのハミルトンが優勝を挙げたわけですが、バーレーンでのタイムをみる限り、全く相手にならないという状況にはならないのではないかと思います。今後控えているサーキットにおいても、このレギュレーション変更が大きく作用する所と小さい所と様々ありそうですが、コーナリングが肝となるサーキットは差が大きく表れるかもしれません。それまで各チームがどのような改良やセッティングを施してくるのか見ものです。

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