昨年のレースウィーク直前に「ポールポジションタイムの変遷、推移」について書いてきました。これらのデータを蓄積することにより、歴代のマシンレギュレーション変更に対してどのような変化をもたらしたのか、どのシーズンのマシンが速かったのかということが割り出せないかなと考え、今回はそれらのまとめと考察について書いていきたいと思います。新しいシーズンが始まるとなかなかそんな時間はありませんし、やる気も萎んでしまいますもんね。ちょっと退屈な話題かもしれませんが、miyabikunの20年度の研究発表にお付き合い下さい。
いつもながら自ら課したことなのに、抽出や集計にだいぶ時間を要してしまいました。まず本編に入る前にサーキット単位で集めてきたインプットを整理しておきたいと思います。
《年別GP開催数とサンプル抽出数》
50年 4/7戦 抽出率57.1%
51年 4/8戦 抽出率50.0%
52年 4/8戦 抽出率50.0%
53年 4/9戦 抽出率44.4%
54年 4/9戦 抽出率44.4%
55年 3/7戦 抽出率42.9%
56年 5/8戦 抽出率62.5%
57年 3/8戦 抽出率37.5%
58年 5/11戦 抽出率45.5%
59年 2/9戦 抽出率22.2%
60年 4/10戦 抽出率40.0%
61年 4/8戦 抽出率50.0%
62年 4/9戦 抽出率44.4%
63年 6/10戦 抽出率60.0%
64年 5/10戦 抽出率50.0%
65年 6/10戦 抽出率60.0%
66年 5/9戦 抽出率55.6%
67年 6/11戦 抽出率54.5%
68年 5/12戦 抽出率41.7%
69年 5/11戦 抽出率45.5%
70年 6/13戦 抽出率46.2%
71年 6/11戦 抽出率54.5%
72年 4/12戦 抽出率33.3%
73年 7/15戦 抽出率46.7%
74年 5/15戦 抽出率33.3%
75年 7/14戦 抽出率50.0%
76年 6/16戦 抽出率37.5%
77年 6/17戦 抽出率35.3%
78年 6/16戦 抽出率37.5%
79年 7/15戦 抽出率46.7%
80年 7/14戦 抽出率50.0%
81年 7/15戦 抽出率46.7%
82年 7/16戦 抽出率43.8%
83年 9/15戦 抽出率60.0%
84年 7/16戦 抽出率43.8%
85年 9/16戦 抽出率56.3%
86年 10/16戦 抽出率62.5%
87年 11/16戦 抽出率68.8%
88年 11/16戦 抽出率68.8%
89年 11/16戦 抽出率68.8%
90年 12/16戦 抽出率75.0%
91年 13/16戦 抽出率81.3%
92年 13/16戦 抽出率81.3%
93年 12/16戦 抽出率75.0%
94年 12/16戦 抽出率75.0%
95年 13/17戦 抽出率76.5%
96年 14/16戦 抽出率87.5%
97年 15/17戦 抽出率88.2%
98年 15/16戦 抽出率93.8%
99年 16/16戦 抽出率100%
00年 17/17戦 抽出率100%
01年 17/17戦 抽出率100%
02年 17/17戦 抽出率100%
03年 16/16戦 抽出率100%
04年 18/18戦 抽出率100%
05年 19/19戦 抽出率100%
06年 18/18戦 抽出率100%
07年 16/17戦 抽出率94.1%
08年 17/18戦 抽出率94.4%
09年 17/17戦 抽出率100%
10年 18/19戦 抽出率94.7%
11年 17/19戦 抽出率89.5%
12年 18/20戦 抽出率90.0%
13年 17/19戦 抽出率89.5%
14年 19/19戦 抽出率100%
15年 19/19戦 抽出率100%
16年 21/21戦 抽出率100%
17年 20/20戦 抽出率100%
18年 21/21戦 抽出率100%
19年 21/21戦 抽出率100%
20年 12/17戦 抽出率70.6% ※
747/1,035戦 72.2%
※20年の開催サーキットとしては14箇所
うち1箇所は別レイアウト、2箇所が新規開催
こちらがシーズン単位の予選データ抽出数になります。今までに「チャンピオンシップに有効なレース」は1,035戦ありました。昨年盛り込めなかった20年シーズンの予選データも追加すると、対象となる予選回数は747戦、全体の72.2%にあたります。本当は1,035戦全てを対象にしないと、精度の高い検証はできませんが、選定の条件に「現役のサーキット」「比較的近年まで開催されたサーキット」「複数回のGPが行われたサーキット」に的を絞って厳選しました。こう言っては何ですが、すごーく昔の特異なレイアウトのサーキットの情報を盛り込んでも、miyabikun観たことがないので意見し辛いですしね。ご理解頂ければと思います。
現役、近年開催のサーキットは概ね盛り込んだため、1999年以降にちらほらシーズン全GPが対象となるものがあります。近年でポツポツと抜けているものは富士での日本GP(2年)や開催回数がさほど多くない韓国GPやインドGPが外れています。また、昨年20年は初開催サーキットや同一二週連続開催のGPがあり、それらを除外した関係で全17戦中12戦分と少ない抽出数となっています。主要どころはカバーしているし、全レースの7割には達しているので、これだけ集めれば大丈夫かな。
《抽出サーキット一覧》(順不同)
アルバートパーク(オーストラリアGP)24回
バーレーン国際(バーレーンGP)16回 ◯※
上海国際(中国GP)16回
ヴァレンシア市街地(ヨーロッパGP)5回
バクー市街地(アゼルバイジャンGPほか) 4回
カタロニア(スペインGP)30回 ◯
モンテカルロ市街地(モナコGP)66回
ジル・ヴィルヌーブ(カナダGP)40回
ポール・リカール(フランスGP)16回
レッドブルリンク(オーストリアGP)32回 ◯※
シルバーストン(イギリスGP)54回 ◯※
ホッケンハイムリンク(ドイツGP)37回
ハンガロリンク(ハンガリーGP)35回 ◯
スパ・フランコルシャン(ベルギーGP)53回 ◯
モンツァ(イタリアGP)70回 ◯
マリーナ・ベイ市街地(シンガポールGP)12回
ソチ・オリンピックパーク(ロシアGP)7回 ◯
鈴鹿(日本GP)31回
サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(アメリカGP)8回
エルマノス・ロドリゲス(メキシコGP)20回
ホセ・カルロス・パーチェ(ブラジルGP)37回
ヤス・マリーナ(アブダビGP)12回 ◯
ニュルブルクリンク(ドイツGPほか)41回 ◯
マニ・クール(フランスGP)18回
エンツォ・エ・ディノ・フェラーリ(サンマリノGPほか)28回 ◯
インディアナポリス(アメリカGP)8回
セパン国際(マレーシアGP)19回
イスタンブールパーク(トルコGP)8回 ◯
28/74サーキット 37.8%
◯は2020年に開催、追加したデータを含む
※二開催サーキットは速い方のデータを抽出
次にサーキット単位で数を集計しておきます。F1は71年の歴史において場所を変え改良を重ね、74のサーキットで行われてきました。同じサーキットでも軽微変更から特性まで様変わりしてしまったところ様々ありますね。あくまでサーキットの単位でみるとそのうちの28サーキットが対象なります。全体の37.8%は一見足りないようにも感じますが、先程も書いたようにこれでも全予選の72.2%はカバーしていますから、大丈夫でしょう。
お馴染みのサーキットから少し懐かしいサーキットがありますね。当然ながら歴史があり最近まで開催されるサーキットは数が多くなり、最多は「非開催はたったの1回」モンツァの70回分、次いでF1の「ザ・市街地」モンテカルロ市街地が66回、F1発祥の地であるシルバーストンが54回(ただし昨シーズンは遅かった方の1回を除く)、そして「悠久の峠の走り屋決定戦」スパ・フランコルシャンの53回と続きます。
以上、これらのデータを使って今回の検証に入っていきます。
《シーズン平均速度と1950年との対比》
サーキットはご存知の通り時代によって様々な変更を経て、それもタイミングはサーキット毎に異なります。それを横並びにするのは困難であり、単純比較はできません。そこで各サーキット各レイアウトを横並びに評価できるよう、いささか乱暴ではありますが、ポールポジションタイムと一周距離から「予選平均速度」を算出しようと思います。高速や低速、ストレートの長さなど、細かな要素はみれなくなるものの、一つの物差しとして大枠は掴めます。
対象となる予選の平均速度を割り出し、年別サーキット別の推移をグラフにしました。みて驚かないで下さいね(笑)
ほらmiyabikunお得意のグチャグチャのチカチカです。デタラメでなくちゃんと計算してプロットしていますからね(笑)色毎にサーキット別を表現していますが、今回は敢えて凡例は付けません。ざっと雰囲気だけでも掴んで頂けたらと思います。上下に行ったり来たりはしつつも、速度域が高めな上限値と速度域が低い下限値のグラフの色はある程度揃ったものとなっています。細かくは改めてみていきますが、平均速度を割り出すと自ずとサーキット特性が表れ、様々な時代においても同じサーキットが選ばれつつあります。勘のいい方ならば、それらのサーキットがどこであるか、薄々想像できると思います。さすがにこれではラチが明かないので、以下で少し整理したいと思います。
年単位で平均速度が最高値を示したものを赤線、最低値を示したものを青線で結び、年毎の「平均速度の平均値」を黒の折れ線グラフで示してみました。さらにアバウトな評価にはなりますが、それらシーズンでどのあたりの速度域にあるかは読み取れます。各年の平均速度と「F1初年の1950年との対比」をズラズラと並べてみます。
50年 平均157.5km/h
51年 平均173.4km/h 対50年比110.0%
52年 平均163.5km/h 対50年比103.8%
53年 平均166.8km/h 対50年比105.9%
54年 平均171.3km/h 対50年比108.7%
55年 平均175.1km/h 対50年比111.1%
56年 平均168.1km/h 対50年比106.7%
57年 平均152.5km/h 対50年比96.8%
58年 平均170.5km/h 対50年比108.2%
59年 平均160.6km/h 対50年比102.0%
60年 平均185.2km/h 対50年比117.6%
61年 平均174.1km/h 対50年比110.5%
62年 平均173.8km/h 対50年比110.3%
63年 平均172.9km/h 対50年比109.7%
64年 平均173.0km/h 対50年比109.8%
65年 平均178.1km/h 対50年比113.1%
66年 平均182.1km/h 対50年比115.6%
67年 平均190.6km/h 対50年比121.0%
68年 平均186.9km/h 対50年比118.7%
69年 平均187.7km/h 対50年比119.2%
70年 平均203.5km/h 対50年比129.2%
71年 平均199.8km/h 対50年比126.8%
72年 平均192.7km/h 対50年比122.3%
73年 平均196.6km/h 対50年比124.8%
74年 平均193.2km/h 対50年比122.6%
75年 平均197.5km/h 対50年比125.3%
76年 平均189.6km/h 対50年比120.3%
77年 平均197.4km/h 対50年比125.3%
78年 平均192.2km/h 対50年比121.9%
79年 平均203.2km/h 対50年比129.0%
80年 平均199.1km/h 対50年比126.4%
81年 平均204.5km/h 対50年比129.8%
82年 平均207.9km/h 対50年比131.9%
83年 平均208.5km/h 対50年比132.3%
84年 平均208.6km/h 対50年比132.4%
85年 平均216.9km/h 対50年比137.7%
86年 平均208.5km/h 対50年比132.3%
87年 平均215.0km/h 対50年比136.5%
88年 平均206.1km/h 対50年比130.8%
89年 平均210.7km/h 対50年比133.7%
90年 平均213.5km/h 対50年比135.5%
91年 平均214.6km/h 対50年比136.2%
92年 平均214.0km/h 対50年比135.9%
93年 平均215.7km/h 対50年比136.9%
94年 平均204.4km/h 対50年比129.7%
95年 平均203.7km/h 対50年比129.3%
96年 平均206.7km/h 対50年比131.2%
97年 平均214.0km/h 対50年比135.8%
98年 平均207.7km/h 対50年比131.8%
99年 平均205.8km/h 対50年比130.6%
00年 平均209.9km/h 対50年比133.2%
01年 平均216.5km/h 対50年比137.4%
02年 平均217.6km/h 対50年比138.1%
03年 平均213.3km/h 対50年比135.4%
04年 平均217.2km/h 対50年比137.9%
05年 平均215.0km/h 対50年比136.5%
06年 平均214.3km/h 対50年比136.1%
07年 平均212.4km/h 対50年比134.8%
08年 平均206.4km/h 対50年比131.0%
09年 平均207.5km/h 対50年比131.7%
10年 平均210.3km/h 対50年比133.5%
11年 平均212.3km/h 対50年比134.8%
12年 平均204.4km/h 対50年比129.7%
13年 平均203.9km/h 対50年比129.4%
14年 平均202.0km/h 対50年比128.2%
15年 平均206.9km/h 対50年比131.3%
16年 平均214.0km/h 対50年比135.9%
17年 平均217.9km/h 対50年比138.3%
18年 平均219.9km/h 対50年比139.6%
19年 平均224.4km/h 対50年比142.4%
20年 平均229.0km/h 対50年比145.4%
多少の上下はありつつも平均値は赤線を示す最高値(最速値)と青線の最低値(最遅値)の間を走ります。平均値がやや最速値に寄りつつある年は「抽出したサーキットが高速によっている」ためと思われます。傾向としてはF1初期から中期にかけての80年代までにみられます。冒頭に挙げたように、古い時代は特に全予選をカバーできず、現在まで続く古参サーキットからの算定になります。シルバーストンにスパ、モンツァとくれば、低速で有名なモンテカルロ市街地は引っ張られてしまいますよね。
グラフをマクロ的に眺めていくと、青の最低値(最遅値)が1951年から54年の4年間を除いて、時系列と共に右肩上がりになっています。先程のサーキット別のグラフと照らし合わせると、茶色の折れ線グラフと重なるわけですが、ほぼほぼ同一サーキットの値です。これは先に答えを言ってしまうとモンテカルロ市街地の平均速度になります。最遅値とはいえ、これはポールポジションのタイムから割り出した平均速度であり、いかにモンテカルロ市街地が他のサーキットより遅く、かつ微妙なレイアウト変更やマシンレギュレーション変更があっても、時代と共にある一定の向上をしているかがわかります。でもそうなると、あの30km/hほど突出した1951年から54年の4年間は何なんだという話になるわけですが、これに限ってはモンテカルロ市街地ではなく(モナコGPが開催されていない)ドイツのニュルブルクリンク(北コース)の値となるためです。モンテカルロ市街地よりは30km/hほど速くなりますが、他のシルバーストンやスパ、モンツァと比べるとあのウネウネ、グニグニのレイアウトですから低速度です。
赤い最速値の方に目をやると、最遅値や平均値よりも上下動が激しくみえます。これこそがF1の真骨頂といえますが、マシン性能とレギュレーションがせめぎ合っているために発生します。例えば1979年の最速値はルノーのジャブイユによるモンツァのデータであり、前年よりも3秒短縮、15km/hの向上を示しています。これはかねて導入していたグラウンドエフェクトに加え、ライバルに先立ち使用していたターボをツインターボにしたことによる性能向上によってもたらされています。また259.0km/hを記録した85年はパワーターボ全盛期でポールポジションを獲得したセナの駆るロータス97Tは予選専用エンジンで最高出力1,500馬力近くといわれ、過給圧(ブースト圧)に段階的に制限を設けた87年、88年はその影響を受けて速度低下がみられます。93年から94年の速度低下はアクティブサスペンションの禁止や94年に発生したラッツェンバーガーとセナの事故死に伴うレギュレーション変更の影響が表れました。さらにはサーキットレイアウト変更も速度低下に多くの影響を与えており、71年から72年の30km/hに及ぶ落差はモンツァサーキットに2つのシケインが設置されたことによります。
古い時代をみてもグラフにおこせば顕著に表れる速度変遷ではありますが、やはりサンプル数が少ないため、近代シーズンと比較すると平準化、精度に欠けます。よって、多くのサンプルを抽出できている近代を引き抜いて拡大してみたいと思います。その引き抜く境目は先程の抽出率で7割近くにあたる1987年以降を対象にしました。F1の歴史は71年、ちょうど半分は35年ですし、87年といえば鈴鹿で日本GPが開催された年ですから、我々にも親しみがあってちょうどいいかな。
《87年以降の平均速度とその対比》
87年 平均215.0km/h
88年 平均206.1km/h 対87年比95.8%
89年 平均210.7km/h 対87年比98.0%
90年 平均213.5km/h 対87年比99.3%
91年 平均214.6km/h 対87年比99.8%
92年 平均214.0km/h 対87年比99.5%
93年 平均215.7km/h 対87年比100.3%
94年 平均204.4km/h 対87年比95.1%
95年 平均203.7km/h 対87年比94.7%
96年 平均206.7km/h 対87年比96.1%
97年 平均214.0km/h 対87年比99.5%
98年 平均207.7km/h 対87年比96.6%
99年 平均205.8km/h 対87年比95.7%
00年 平均209.9km/h 対87年比97.6%
01年 平均216.5km/h 対87年比100.7%
02年 平均217.6km/h 対87年比101.2%
03年 平均213.3km/h 対87年比99.2%
04年 平均217.2km/h 対87年比101.0%
05年 平均215.0km/h 対87年比100.0%
06年 平均214.3km/h 対87年比99.7%
07年 平均212.4km/h 対87年比98.8%
08年 平均206.4km/h 対87年比96.0%
09年 平均207.5km/h 対87年比96.5%
10年 平均210.3km/h 対87年比97.8%
11年 平均212.3km/h 対87年比98.8%
12年 平均204.4km/h 対87年比95.1%
13年 平均203.9km/h 対87年比94.8%
14年 平均202.0km/h 対87年比93.9%
15年 平均206.9km/h 対87年比96.2%
16年 平均214.0km/h 対87年比99.6%
17年 平均217.9km/h 対87年比101.3%
18年 平均219.9km/h 対87年比102.3%
19年 平均224.4km/h 対87年比104.3%
20年 平均229.0km/h 対87年比106.5%
今から34年前にあたる1987年を基点とし、以降の速度と対比させ、同様の色遣いでグラフを拡大表示してみました。
ピックアップすると、最遅値こそ実直なモンテカルロ市街地により右肩上がりになっていますが、平均値、最速値は意外にも単純な右肩上がりとはいかず、似たような水準を行き来しているようにみえます。特に2017年以降の近年3年は平均値の向上はあるものの、260km/h前半で頭打ちしているように感じます。平均値はシーズンのサーキットの平均ですから、まだ伸び代のあるサーキットを含んでいるわけですが、最速値(事実上、モンツァ)に関しては「現代におけるサーキットレイアウトにて速く走る限界」に近づいているように思います。仮に馬力向上やレスダウンフォースのセッティングで最高速は伸びても、コーナー半径が変わらなければ曲がり切れる限界の速度までの減速は必要になりますので、一周の平均速度を上げるためにはストレートでの速度向上よりは「いかにコーナーを『コーナー扱い』せずに走れるか」にかかってきます。パワーよりもダウンフォースに関するレギュレーションをより追求しないと難しくなりそうです。
先程も書いた87年から88年のターボ終焉の落ち込みや94年のセナショック、さらには98年のナローサイズ化およびグルーブドタイヤ導入による落ち込みがみられます。08年にある最速値に極端な落ち込みについては、最速値大半を占めるモンツァからの抽出ではなく、この年に限ってはスパ・フランコルシャンでのデータによるものです。この年のイタリアGP予選は雨に見舞われ、当時トロ・ロッソの若手であったベッテルの最年少初ポール(からの最年少初優勝)がありました。そのため、次点234.9km/hのスパが選ばれています。ちなみに前年07年のスパは平均237.9km/h、翌年10年の平均は237.2km/hであったため、若干の落ち込みはありました。
《87年以降の平均速度ベスト&ワースト10》
87年以降の平均速度のベストとワースト(という表現も語弊がありますが)を並べてみました。
1 20年 平均229.0km/h 対87年比106.5%
2 19年 平均224.4km/h 対87年比104.3%
3 18年 平均219.9km/h 対87年比102.3%
4 17年 平均217.9km/h 対87年比101.3%
5 02年 平均217.6km/h 対87年比101.2%
6 04年 平均217.2km/h 対87年比101.0%
7 01年 平均216.5km/h 対87年比100.7%
8 93年 平均215.7km/h 対87年比100.3%
9 87年 平均215.0km/h
05年 平均215.0km/h 対87年比100.0%
- - - - - - - - - - - - -
24 09年 平均207.5km/h 対87年比96.5%
25 15年 平均206.9km/h 対87年比96.2%
26 96年 平均206.7km/h 対87年比96.1%
27 08年 平均206.4km/h 対87年比96.0%
28 88年 平均206.1km/h 対87年比95.8%
29 99年 平均205.8km/h 対87年比95.7%
30 94年 平均204.4km/h 対87年比95.1%
12年 平均204.4km/h 対87年比95.1%
32 13年 平均203.9km/h 対87年比94.8%
33 95年 平均203.7km/h 対87年比94.7%
34 14年 平均202.0km/h 対87年比93.9%
ベースとなる1987年が215.0km/hと比較的高いため、それを上回るシーズンが8シーズンしかありませんでした。2017年の平均217.9km/hにはじまり、そのまま近年の4年でトントン拍子に速くなっており、最速は昨年の平均229.0km/h、対87年比較では6.5%も向上しました。ほか、2003年を除く01年から05年までの3.0ℓV10時代末期が上位にきています。8番目に入った93年はガチガチの電子制御デバイスを盛り込んだ最終年となっています。
相対して下位に入ってくるのは現パワーユニット元年の2014年を筆頭に、変革を求められた94年や95年、細かなエアロパーツを削がれた09年などの結果からわかるように「レギュレーション変更直前の時期」が上位に名を連ね、翌年の変更に伴い、蓄積されたノウハウや勢力図がリセットされ、平均速度が落ち込む、という流れを繰り返しています。
《87年以降の平均最高速度ベスト&ワースト10》
最後は最速値のベスト、ワーストの10位を挙げます。こちらは平均値と異なり「どの年のどのサーキットか」までが明確になるため、サーキットまでを表記しています。
1 20年 平均最速264.4km/h モンツァ
2 18年 平均最速263.6km/h モンツァ
3 19年 平均最速263.0km/h モンツァ
4 04年 平均最速260.4km/h モンツァ
5 02年 平均最速259.8km/h モンツァ
6 03年 平均最速257.6km/h モンツァ
7 91年 平均最速257.4km/h モンツァ
8 05年 平均最速257.3km/h モンツァ
9 93年 平均最速257.2km/h モンツァ
10 16年 平均最速257.0km/h モンツァ
- - - - - - - - - - - - -
23 94年 平均最速249.0km/h モンツァ
00年 平均最速249.0km/h モンツァ
13年 平均最速249.0km/h モンツァ
26 12年 平均最速248.2km/h モンツァ
27 09年 平均最速248.1km/h モンツァ
28 14年 平均最速247.9km/h モンツァ
29 96年 平均最速246.7km/h モンツァ
30 95年 平均最速245.9km/h モンツァ
17年 平均最速245.9km/h スパ・フランコルシャン
32 88年 平均最速245.3km/h シルバーストン
33 98年 平均最速243.5km/h モンツァ
34 08年 平均最速234.9km/h スパ・フランコルシャン
28サーキットのうち、年間最速を記録したサーキットはたったの3箇所。それも34年の中でモンツァがベスト10を含む19回(86.4%)、スパが2回、シルバーストンが1回という内訳となりました。開催回数も70回で最多、平均最高速度もダントツのトップと「キング・オブ・F1サーキット」であることが明らかです。スパやシルバーストンも昔から高速サーキットの位置付けで名が通っています。速いだけがF1ではありませんが、やはりスピード感が溢れるサーキットやGPに人気が集まるのには納得できますよね。
《今回の「年単位」の検証の結論》
今回は歴代ポールポジションタイムを速度変換し、年単位で整理、比較してみました。冒頭にも書きましたが、サンプル数の不足や整理の粗さもあり、断言するには説得力が欠けますが、いくつかの結論が明らかになりました。
・F1の歴代最速シーズンは「2020年シーズン」
・近年は様々な要因で「速い遅い」を繰り返す
・最遅値(ほぼモナコ)はレギュレーションに
影響され難い
・最速値(ほぼモンツァ)はレギュレーションの
昨年のレースウィーク直前に「ポールポジションタイムの変遷、推移」について書いてきました。これらのデータを蓄積することにより、歴代のマシンレギュレーション変更に対してどのような変化をもたらしたのか、どのシーズンのマシンが速かったのかということが割り出せないかなと考え、今回はそれらのまとめと考察について書いていきたいと思います。新しいシーズンが始まるとなかなかそんな時間はありませんし、やる気も萎んでしまいますもんね。ちょっと退屈な話題かもしれませんが、miyabikunの20年度の研究発表にお付き合い下さい。
いつもながら自ら課したことなのに、抽出や集計にだいぶ時間を要してしまいました。まず本編に入る前にサーキット単位で集めてきたインプットを整理しておきたいと思います。
《年別GP開催数とサンプル抽出数》
50年 4/7戦 抽出率57.1%
51年 4/8戦 抽出率50.0%
52年 4/8戦 抽出率50.0%
53年 4/9戦 抽出率44.4%
54年 4/9戦 抽出率44.4%
55年 3/7戦 抽出率42.9%
56年 5/8戦 抽出率62.5%
57年 3/8戦 抽出率37.5%
58年 5/11戦 抽出率45.5%
59年 2/9戦 抽出率22.2%
60年 4/10戦 抽出率40.0%
61年 4/8戦 抽出率50.0%
62年 4/9戦 抽出率44.4%
63年 6/10戦 抽出率60.0%
64年 5/10戦 抽出率50.0%
65年 6/10戦 抽出率60.0%
66年 5/9戦 抽出率55.6%
67年 6/11戦 抽出率54.5%
68年 5/12戦 抽出率41.7%
69年 5/11戦 抽出率45.5%
70年 6/13戦 抽出率46.2%
71年 6/11戦 抽出率54.5%
72年 4/12戦 抽出率33.3%
73年 7/15戦 抽出率46.7%
74年 5/15戦 抽出率33.3%
75年 7/14戦 抽出率50.0%
76年 6/16戦 抽出率37.5%
77年 6/17戦 抽出率35.3%
78年 6/16戦 抽出率37.5%
79年 7/15戦 抽出率46.7%
80年 7/14戦 抽出率50.0%
81年 7/15戦 抽出率46.7%
82年 7/16戦 抽出率43.8%
83年 9/15戦 抽出率60.0%
84年 7/16戦 抽出率43.8%
85年 9/16戦 抽出率56.3%
86年 10/16戦 抽出率62.5%
87年 11/16戦 抽出率68.8%
88年 11/16戦 抽出率68.8%
89年 11/16戦 抽出率68.8%
90年 12/16戦 抽出率75.0%
91年 13/16戦 抽出率81.3%
92年 13/16戦 抽出率81.3%
93年 12/16戦 抽出率75.0%
94年 12/16戦 抽出率75.0%
95年 13/17戦 抽出率76.5%
96年 14/16戦 抽出率87.5%
97年 15/17戦 抽出率88.2%
98年 15/16戦 抽出率93.8%
99年 16/16戦 抽出率100%
00年 17/17戦 抽出率100%
01年 17/17戦 抽出率100%
02年 17/17戦 抽出率100%
03年 16/16戦 抽出率100%
04年 18/18戦 抽出率100%
05年 19/19戦 抽出率100%
06年 18/18戦 抽出率100%
07年 16/17戦 抽出率94.1%
08年 17/18戦 抽出率94.4%
09年 17/17戦 抽出率100%
10年 18/19戦 抽出率94.7%
11年 17/19戦 抽出率89.5%
12年 18/20戦 抽出率90.0%
13年 17/19戦 抽出率89.5%
14年 19/19戦 抽出率100%
15年 19/19戦 抽出率100%
16年 21/21戦 抽出率100%
17年 20/20戦 抽出率100%
18年 21/21戦 抽出率100%
19年 21/21戦 抽出率100%
20年 12/17戦 抽出率70.6% ※
747/1,035戦 72.2%
※20年の開催サーキットとしては14箇所
うち1箇所は別レイアウト、2箇所が新規開催
こちらがシーズン単位の予選データ抽出数になります。今までに「チャンピオンシップに有効なレース」は1,035戦ありました。昨年盛り込めなかった20年シーズンの予選データも追加すると、対象となる予選回数は747戦、全体の72.2%にあたります。本当は1,035戦全てを対象にしないと、精度の高い検証はできませんが、選定の条件に「現役のサーキット」「比較的近年まで開催されたサーキット」「複数回のGPが行われたサーキット」に的を絞って厳選しました。こう言っては何ですが、すごーく昔の特異なレイアウトのサーキットの情報を盛り込んでも、miyabikun観たことがないので意見し辛いですしね。ご理解頂ければと思います。
現役、近年開催のサーキットは概ね盛り込んだため、1999年以降にちらほらシーズン全GPが対象となるものがあります。近年でポツポツと抜けているものは富士での日本GP(2年)や開催回数がさほど多くない韓国GPやインドGPが外れています。また、昨年20年は初開催サーキットや同一二週連続開催のGPがあり、それらを除外した関係で全17戦中12戦分と少ない抽出数となっています。主要どころはカバーしているし、全レースの7割には達しているので、これだけ集めれば大丈夫かな。
《抽出サーキット一覧》(順不同)
アルバートパーク(オーストラリアGP)24回
バーレーン国際(バーレーンGP)16回 ◯※
上海国際(中国GP)16回
ヴァレンシア市街地(ヨーロッパGP)5回
バクー市街地(アゼルバイジャンGPほか) 4回
カタロニア(スペインGP)30回 ◯
モンテカルロ市街地(モナコGP)66回
ジル・ヴィルヌーブ(カナダGP)40回
ポール・リカール(フランスGP)16回
レッドブルリンク(オーストリアGP)32回 ◯※
シルバーストン(イギリスGP)54回 ◯※
ホッケンハイムリンク(ドイツGP)37回
ハンガロリンク(ハンガリーGP)35回 ◯
スパ・フランコルシャン(ベルギーGP)53回 ◯
モンツァ(イタリアGP)70回 ◯
マリーナ・ベイ市街地(シンガポールGP)12回
ソチ・オリンピックパーク(ロシアGP)7回 ◯
鈴鹿(日本GP)31回
サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(アメリカGP)8回
エルマノス・ロドリゲス(メキシコGP)20回
ホセ・カルロス・パーチェ(ブラジルGP)37回
ヤス・マリーナ(アブダビGP)12回 ◯
ニュルブルクリンク(ドイツGPほか)41回 ◯
マニ・クール(フランスGP)18回
エンツォ・エ・ディノ・フェラーリ(サンマリノGPほか)28回 ◯
インディアナポリス(アメリカGP)8回
セパン国際(マレーシアGP)19回
イスタンブールパーク(トルコGP)8回 ◯
28/74サーキット 37.8%
◯は2020年に開催、追加したデータを含む
※二開催サーキットは速い方のデータを抽出
次にサーキット単位で数を集計しておきます。F1は71年の歴史において場所を変え改良を重ね、74のサーキットで行われてきました。同じサーキットでも軽微変更から特性まで様変わりしてしまったところ様々ありますね。あくまでサーキットの単位でみるとそのうちの28サーキットが対象なります。全体の37.8%は一見足りないようにも感じますが、先程も書いたようにこれでも全予選の72.2%はカバーしていますから、大丈夫でしょう。
お馴染みのサーキットから少し懐かしいサーキットがありますね。当然ながら歴史があり最近まで開催されるサーキットは数が多くなり、最多は「非開催はたったの1回」モンツァの70回分、次いでF1の「ザ・市街地」モンテカルロ市街地が66回、F1発祥の地であるシルバーストンが54回(ただし昨シーズンは遅かった方の1回を除く)、そして「悠久の峠の走り屋決定戦」スパ・フランコルシャンの53回と続きます。
以上、これらのデータを使って今回の検証に入っていきます。
《シーズン平均速度と1950年との対比》
サーキットはご存知の通り時代によって様々な変更を経て、それもタイミングはサーキット毎に異なります。それを横並びにするのは困難であり、単純比較はできません。そこで各サーキット各レイアウトを横並びに評価できるよう、いささか乱暴ではありますが、ポールポジションタイムと一周距離から「予選平均速度」を算出しようと思います。高速や低速、ストレートの長さなど、細かな要素はみれなくなるものの、一つの物差しとして大枠は掴めます。
対象となる予選の平均速度を割り出し、年別サーキット別の推移をグラフにしました。みて驚かないで下さいね(笑)
ほらmiyabikunお得意のグチャグチャのチカチカです。デタラメでなくちゃんと計算してプロットしていますからね(笑)色毎にサーキット別を表現していますが、今回は敢えて凡例は付けません。ざっと雰囲気だけでも掴んで頂けたらと思います。上下に行ったり来たりはしつつも、速度域が高めな上限値と速度域が低い下限値のグラフの色はある程度揃ったものとなっています。細かくは改めてみていきますが、平均速度を割り出すと自ずとサーキット特性が表れ、様々な時代においても同じサーキットが選ばれつつあります。勘のいい方ならば、それらのサーキットがどこであるか、薄々想像できると思います。さすがにこれではラチが明かないので、以下で少し整理したいと思います。
年単位で平均速度が最高値を示したものを赤線、最低値を示したものを青線で結び、年毎の「平均速度の平均値」を黒の折れ線グラフで示してみました。さらにアバウトな評価にはなりますが、それらシーズンでどのあたりの速度域にあるかは読み取れます。各年の平均速度と「F1初年の1950年との対比」をズラズラと並べてみます。
50年 平均157.5km/h
51年 平均173.4km/h 対50年比110.0%
52年 平均163.5km/h 対50年比103.8%
53年 平均166.8km/h 対50年比105.9%
54年 平均171.3km/h 対50年比108.7%
55年 平均175.1km/h 対50年比111.1%
56年 平均168.1km/h 対50年比106.7%
57年 平均152.5km/h 対50年比96.8%
58年 平均170.5km/h 対50年比108.2%
59年 平均160.6km/h 対50年比102.0%
60年 平均185.2km/h 対50年比117.6%
61年 平均174.1km/h 対50年比110.5%
62年 平均173.8km/h 対50年比110.3%
63年 平均172.9km/h 対50年比109.7%
64年 平均173.0km/h 対50年比109.8%
65年 平均178.1km/h 対50年比113.1%
66年 平均182.1km/h 対50年比115.6%
67年 平均190.6km/h 対50年比121.0%
68年 平均186.9km/h 対50年比118.7%
69年 平均187.7km/h 対50年比119.2%
70年 平均203.5km/h 対50年比129.2%
71年 平均199.8km/h 対50年比126.8%
72年 平均192.7km/h 対50年比122.3%
73年 平均196.6km/h 対50年比124.8%
74年 平均193.2km/h 対50年比122.6%
75年 平均197.5km/h 対50年比125.3%
76年 平均189.6km/h 対50年比120.3%
77年 平均197.4km/h 対50年比125.3%
78年 平均192.2km/h 対50年比121.9%
79年 平均203.2km/h 対50年比129.0%
80年 平均199.1km/h 対50年比126.4%
81年 平均204.5km/h 対50年比129.8%
82年 平均207.9km/h 対50年比131.9%
83年 平均208.5km/h 対50年比132.3%
84年 平均208.6km/h 対50年比132.4%
85年 平均216.9km/h 対50年比137.7%
86年 平均208.5km/h 対50年比132.3%
87年 平均215.0km/h 対50年比136.5%
88年 平均206.1km/h 対50年比130.8%
89年 平均210.7km/h 対50年比133.7%
90年 平均213.5km/h 対50年比135.5%
91年 平均214.6km/h 対50年比136.2%
92年 平均214.0km/h 対50年比135.9%
93年 平均215.7km/h 対50年比136.9%
94年 平均204.4km/h 対50年比129.7%
95年 平均203.7km/h 対50年比129.3%
96年 平均206.7km/h 対50年比131.2%
97年 平均214.0km/h 対50年比135.8%
98年 平均207.7km/h 対50年比131.8%
99年 平均205.8km/h 対50年比130.6%
00年 平均209.9km/h 対50年比133.2%
01年 平均216.5km/h 対50年比137.4%
02年 平均217.6km/h 対50年比138.1%
03年 平均213.3km/h 対50年比135.4%
04年 平均217.2km/h 対50年比137.9%
05年 平均215.0km/h 対50年比136.5%
06年 平均214.3km/h 対50年比136.1%
07年 平均212.4km/h 対50年比134.8%
08年 平均206.4km/h 対50年比131.0%
09年 平均207.5km/h 対50年比131.7%
10年 平均210.3km/h 対50年比133.5%
11年 平均212.3km/h 対50年比134.8%
12年 平均204.4km/h 対50年比129.7%
13年 平均203.9km/h 対50年比129.4%
14年 平均202.0km/h 対50年比128.2%
15年 平均206.9km/h 対50年比131.3%
16年 平均214.0km/h 対50年比135.9%
17年 平均217.9km/h 対50年比138.3%
18年 平均219.9km/h 対50年比139.6%
19年 平均224.4km/h 対50年比142.4%
20年 平均229.0km/h 対50年比145.4%
多少の上下はありつつも平均値は赤線を示す最高値(最速値)と青線の最低値(最遅値)の間を走ります。平均値がやや最速値に寄りつつある年は「抽出したサーキットが高速によっている」ためと思われます。傾向としてはF1初期から中期にかけての80年代までにみられます。冒頭に挙げたように、古い時代は特に全予選をカバーできず、現在まで続く古参サーキットからの算定になります。シルバーストンにスパ、モンツァとくれば、低速で有名なモンテカルロ市街地は引っ張られてしまいますよね。
グラフをマクロ的に眺めていくと、青の最低値(最遅値)が1951年から54年の4年間を除いて、時系列と共に右肩上がりになっています。先程のサーキット別のグラフと照らし合わせると、茶色の折れ線グラフと重なるわけですが、ほぼほぼ同一サーキットの値です。これは先に答えを言ってしまうとモンテカルロ市街地の平均速度になります。最遅値とはいえ、これはポールポジションのタイムから割り出した平均速度であり、いかにモンテカルロ市街地が他のサーキットより遅く、かつ微妙なレイアウト変更やマシンレギュレーション変更があっても、時代と共にある一定の向上をしているかがわかります。でもそうなると、あの30km/hほど突出した1951年から54年の4年間は何なんだという話になるわけですが、これに限ってはモンテカルロ市街地ではなく(モナコGPが開催されていない)ドイツのニュルブルクリンク(北コース)の値となるためです。モンテカルロ市街地よりは30km/hほど速くなりますが、他のシルバーストンやスパ、モンツァと比べるとあのウネウネ、グニグニのレイアウトですから低速度です。
赤い最速値の方に目をやると、最遅値や平均値よりも上下動が激しくみえます。これこそがF1の真骨頂といえますが、マシン性能とレギュレーションがせめぎ合っているために発生します。例えば1979年の最速値はルノーのジャブイユによるモンツァのデータであり、前年よりも3秒短縮、15km/hの向上を示しています。これはかねて導入していたグラウンドエフェクトに加え、ライバルに先立ち使用していたターボをツインターボにしたことによる性能向上によってもたらされています。また259.0km/hを記録した85年はパワーターボ全盛期でポールポジションを獲得したセナの駆るロータス97Tは予選専用エンジンで最高出力1,500馬力近くといわれ、過給圧(ブースト圧)に段階的に制限を設けた87年、88年はその影響を受けて速度低下がみられます。93年から94年の速度低下はアクティブサスペンションの禁止や94年に発生したラッツェンバーガーとセナの事故死に伴うレギュレーション変更の影響が表れました。さらにはサーキットレイアウト変更も速度低下に多くの影響を与えており、71年から72年の30km/hに及ぶ落差はモンツァサーキットに2つのシケインが設置されたことによります。
古い時代をみてもグラフにおこせば顕著に表れる速度変遷ではありますが、やはりサンプル数が少ないため、近代シーズンと比較すると平準化、精度に欠けます。よって、多くのサンプルを抽出できている近代を引き抜いて拡大してみたいと思います。その引き抜く境目は先程の抽出率で7割近くにあたる1987年以降を対象にしました。F1の歴史は71年、ちょうど半分は35年ですし、87年といえば鈴鹿で日本GPが開催された年ですから、我々にも親しみがあってちょうどいいかな。
《87年以降の平均速度とその対比》
87年 平均215.0km/h
88年 平均206.1km/h 対87年比95.8%
89年 平均210.7km/h 対87年比98.0%
90年 平均213.5km/h 対87年比99.3%
91年 平均214.6km/h 対87年比99.8%
92年 平均214.0km/h 対87年比99.5%
93年 平均215.7km/h 対87年比100.3%
94年 平均204.4km/h 対87年比95.1%
95年 平均203.7km/h 対87年比94.7%
96年 平均206.7km/h 対87年比96.1%
97年 平均214.0km/h 対87年比99.5%
98年 平均207.7km/h 対87年比96.6%
99年 平均205.8km/h 対87年比95.7%
00年 平均209.9km/h 対87年比97.6%
01年 平均216.5km/h 対87年比100.7%
02年 平均217.6km/h 対87年比101.2%
03年 平均213.3km/h 対87年比99.2%
04年 平均217.2km/h 対87年比101.0%
05年 平均215.0km/h 対87年比100.0%
06年 平均214.3km/h 対87年比99.7%
07年 平均212.4km/h 対87年比98.8%
08年 平均206.4km/h 対87年比96.0%
09年 平均207.5km/h 対87年比96.5%
10年 平均210.3km/h 対87年比97.8%
11年 平均212.3km/h 対87年比98.8%
12年 平均204.4km/h 対87年比95.1%
13年 平均203.9km/h 対87年比94.8%
14年 平均202.0km/h 対87年比93.9%
15年 平均206.9km/h 対87年比96.2%
16年 平均214.0km/h 対87年比99.6%
17年 平均217.9km/h 対87年比101.3%
18年 平均219.9km/h 対87年比102.3%
19年 平均224.4km/h 対87年比104.3%
20年 平均229.0km/h 対87年比106.5%
今から34年前にあたる1987年を基点とし、以降の速度と対比させ、同様の色遣いでグラフを拡大表示してみました。
ピックアップすると、最遅値こそ実直なモンテカルロ市街地により右肩上がりになっていますが、平均値、最速値は意外にも単純な右肩上がりとはいかず、似たような水準を行き来しているようにみえます。特に2017年以降の近年3年は平均値の向上はあるものの、260km/h前半で頭打ちしているように感じます。平均値はシーズンのサーキットの平均ですから、まだ伸び代のあるサーキットを含んでいるわけですが、最速値(事実上、モンツァ)に関しては「現代におけるサーキットレイアウトにて速く走る限界」に近づいているように思います。仮に馬力向上やレスダウンフォースのセッティングで最高速は伸びても、コーナー半径が変わらなければ曲がり切れる限界の速度までの減速は必要になりますので、一周の平均速度を上げるためにはストレートでの速度向上よりは「いかにコーナーを『コーナー扱い』せずに走れるか」にかかってきます。パワーよりもダウンフォースに関するレギュレーションをより追求しないと難しくなりそうです。
先程も書いた87年から88年のターボ終焉の落ち込みや94年のセナショック、さらには98年のナローサイズ化およびグルーブドタイヤ導入による落ち込みがみられます。08年にある最速値に極端な落ち込みについては、最速値大半を占めるモンツァからの抽出ではなく、この年に限ってはスパ・フランコルシャンでのデータによるものです。この年のイタリアGP予選は雨に見舞われ、当時トロ・ロッソの若手であったベッテルの最年少初ポール(からの最年少初優勝)がありました。そのため、次点234.9km/hのスパが選ばれています。ちなみに前年07年のスパは平均237.9km/h、翌年10年の平均は237.2km/hであったため、若干の落ち込みはありました。
《87年以降の平均速度ベスト&ワースト10》
87年以降の平均速度のベストとワースト(という表現も語弊がありますが)を並べてみました。
1 20年 平均229.0km/h 対87年比106.5%
2 19年 平均224.4km/h 対87年比104.3%
3 18年 平均219.9km/h 対87年比102.3%
4 17年 平均217.9km/h 対87年比101.3%
5 02年 平均217.6km/h 対87年比101.2%
6 04年 平均217.2km/h 対87年比101.0%
7 01年 平均216.5km/h 対87年比100.7%
8 93年 平均215.7km/h 対87年比100.3%
9 87年 平均215.0km/h
05年 平均215.0km/h 対87年比100.0%
- - - - - - - - - - - - -
24 09年 平均207.5km/h 対87年比96.5%
25 15年 平均206.9km/h 対87年比96.2%
26 96年 平均206.7km/h 対87年比96.1%
27 08年 平均206.4km/h 対87年比96.0%
28 88年 平均206.1km/h 対87年比95.8%
29 99年 平均205.8km/h 対87年比95.7%
30 94年 平均204.4km/h 対87年比95.1%
12年 平均204.4km/h 対87年比95.1%
32 13年 平均203.9km/h 対87年比94.8%
33 95年 平均203.7km/h 対87年比94.7%
34 14年 平均202.0km/h 対87年比93.9%
ベースとなる1987年が215.0km/hと比較的高いため、それを上回るシーズンが8シーズンしかありませんでした。2017年の平均217.9km/hにはじまり、そのまま近年の4年でトントン拍子に速くなっており、最速は昨年の平均229.0km/h、対87年比較では6.5%も向上しました。ほか、2003年を除く01年から05年までの3.0ℓV10時代末期が上位にきています。8番目に入った93年はガチガチの電子制御デバイスを盛り込んだ最終年となっています。
相対して下位に入ってくるのは現パワーユニット元年の2014年を筆頭に、変革を求められた94年や95年、細かなエアロパーツを削がれた09年などの結果からわかるように「レギュレーション変更直前の時期」が上位に名を連ね、翌年の変更に伴い、蓄積されたノウハウや勢力図がリセットされ、平均速度が落ち込む、という流れを繰り返しています。
《87年以降の平均最高速度ベスト&ワースト10》
最後は最速値のベスト、ワーストの10位を挙げます。こちらは平均値と異なり「どの年のどのサーキットか」までが明確になるため、サーキットまでを表記しています。
1 20年 平均最速264.4km/h モンツァ
2 18年 平均最速263.6km/h モンツァ
3 19年 平均最速263.0km/h モンツァ
4 04年 平均最速260.4km/h モンツァ
5 02年 平均最速259.8km/h モンツァ
6 03年 平均最速257.6km/h モンツァ
7 91年 平均最速257.4km/h モンツァ
8 05年 平均最速257.3km/h モンツァ
9 93年 平均最速257.2km/h モンツァ
10 16年 平均最速257.0km/h モンツァ
- - - - - - - - - - - - -
23 94年 平均最速249.0km/h モンツァ
00年 平均最速249.0km/h モンツァ
13年 平均最速249.0km/h モンツァ
26 12年 平均最速248.2km/h モンツァ
27 09年 平均最速248.1km/h モンツァ
28 14年 平均最速247.9km/h モンツァ
29 96年 平均最速246.7km/h モンツァ
30 95年 平均最速245.9km/h モンツァ
17年 平均最速245.9km/h スパ・フランコルシャン
32 88年 平均最速245.3km/h シルバーストン
33 98年 平均最速243.5km/h モンツァ
34 08年 平均最速234.9km/h スパ・フランコルシャン
28サーキットのうち、年間最速を記録したサーキットはたったの3箇所。それも34年の中でモンツァがベスト10を含む19回(86.4%)、スパが2回、シルバーストンが1回という内訳となりました。開催回数も70回で最多、平均最高速度もダントツのトップと「キング・オブ・F1サーキット」であることが明らかです。スパやシルバーストンも昔から高速サーキットの位置付けで名が通っています。速いだけがF1ではありませんが、やはりスピード感が溢れるサーキットやGPに人気が集まるのには納得できますよね。
《今回の「年単位」の検証の結論》
今回は歴代ポールポジションタイムを速度変換し、年単位で整理、比較してみました。冒頭にも書きましたが、サンプル数の不足や整理の粗さもあり、断言するには説得力が欠けますが、いくつかの結論が明らかになりました。
・F1の歴代最速シーズンは「2020年シーズン」
・近年は様々な要因で「速い遅い」を繰り返す
・最遅値(ほぼモナコ)はレギュレーションに
影響され難い
・最速値(ほぼモンツァ)はレギュレーションの
変更をモロに受ける
次は別の視点で掘り下げてみたいと思います。
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コメント
コメント一覧 (4)
平均の速さが戻っていくのは流石の開発力ですね。
高速化していく中で安全性も考えないといけないし、
見た目も気にしないといけない...とても難しい
ですね。とりあえずHAROをどうにかしてくれー
話がそれますが最近は人気を取り戻そうとして
レギュレーションなど迷走しているように思います。
2014年のノーズがいい例ですが、個人的には2017年の
タイヤ幅が太くなったのがあまり好きではないです。
横幅だけが広がってなんとも言えないが、
とにかくダサいなぁと当時思っていました。
(2014年の件は安全性が第1の理由でしたね)
翌年のタイヤの種類を増やしたのも戦略の幅を広げるためなんでしょうけど、色分けはされていましたが
多すぎて覚えきれないし、そんなに使い分けるのか?と思いました。翌年には撤廃されましたし
いらなかったのでは?と思っていました。
グラフ化するとよくわかるのですが、
技術を持って速さを追求するエンジニア達と
安全性やエンターテイメントを盾に
時々ある大幅レギュレーション変更はお互いに
対抗して今日まで繰り返してきています。
今回の時系列編において最速値がそれを
わかりやすく表現していたように思います。
一方で最遅値の方はレギュレーションに左右されず
地道な努力によって右肩上がりの速度向上を
示していました。
さらなる最速値の向上には大変革が必要そうですが、
最遅値はこの先も少しずつ向上し続けるのか、
どこまで最速値に近付けるのか興味があります。
(モンテカルロでモンツァの速度域は不可能ですが)
F1はドライバーもファンも憧れる最上位カテゴリー
の一つですから、速さはもちろんのこと安全性や
エンターテイメント、さらには見た目の美しさや
力強いエキゾーストノートなど、全てにおいて
最上位を貫いてほしいものですね。
ハロについては当初miyabikunも慣れるまで
心配しましたが、昨年のバーレーンGPでの
グロージャンの件を考えると、今や無くてはならない
フォーミュラカーのアイテムになったと
改めさせられました。
もっと先の将来、ハロが無い時代のマシンを
見返した時、今オールドカーを見ているのと
同じような古めかしさや危険さを思うように
なるのかもしれませんね。
タイヤについては、miyabikunも疑問や異論を
ずっと感じていました。
一時期はあまりにも酷く、このブログでも何回か
突っかかったことがありました。
タイヤを増やすならば、縛らずにチームやドライバー
が戦略に合わせて自由に使わせればいいし、
使いもしない、使い辛いタイヤならそもそも
用意しなければいいのに、なんて思います。
最終的にはソフト、ミディアム、ハードの3種で
充分、なんて簡素化で落ち着きそうな気がします。
HALOな
とりあえず綴り間違いをどうにかしてくれー
こんばんは。ご指摘ありがとうございます。
HALOですね(笑)
ご指摘されるまで気付きませんでした。
こちらのコメントはmiyabikunでは直せませんが、
miyabikunもどこか誤りが無いか一応確認します。
今後もどこかまた誤りがあればお知らせ下さい。