時代と共にポールポジションのタイムの変化をみるこの企画もこのヤス・マリーナにて最終回となります。律儀に中止GPのデータやおまけのサーキットを加えて行ってきたため、かなりの数をこなせたと思います。アブダビGP自体はまだ歴史が浅いから、データ採りとしては少し弱いでしょうか。みていきましょう。

IMG_7588
《ヤス・マリーナの基本情報》
    全長   :5.554km(2009〜)
 コーナー数:21箇所(2009〜)
   開催回数  :11回

ヤス島と呼ばれる島の南側に縦長で新設されたクローズドサーキットです。マリーナという名の通り、モナコのようなヨットハーバー、フェラーリ直営の遊園地に高級ホテルと観光名所になっていますが、島自体はまだ未開発の土地も多く、周辺は正直殺風景です。他のサーキットとの大きな違いとしては、サーキットの目と鼻の先に国際空港があるため、トランスポートや来場が楽な点でしょうか。逆方向に向かうと砂漠の中をさまようことになります。
開催初年の2009年から決勝レースは夕方にスタートし、終了は完全に夜という「ナイト(トワイライト)レース」が行われてきました。ご近所のバーレーンGPと同じですね。トラックは多くの投光器やイルミネーションに囲まれて、レース終了と共に花火が打ち上がる演出は中東レースのお決まりとなっています。サーキットレイアウトはココもヘルマン・ティルケが監修。長いストレートと中高速、直角コーナーからなり、コーナーは一部バンク角が逆に設置されていたり、立地の都合上ピットアウトレーンが本線トラックをアンダーパスするのも特徴的です。

《ヤス・マリーナの予選P.P.タイム変遷》
 09 5.554km 1分40秒948 100% ハミルトン
 10 5.554km 1分39秒394   98.5% ベッテル
 11 5.554km 1分38秒481   97.6% ベッテル
 12 5.554km 1分40秒630   99.7% ハミルトン
 13 5.554km 1分39秒957   99.0% ウェバー
 14 5.554km 1分40秒480   99.5% Nロズベルグ
 15 5.554km 1分40秒237   99.3% Nロズベルグ
 16 5.554km 1分38秒755   97.8% ハミルトン
 17 5.554km 1分36秒231   95.3% ボッタス
 18 5.554km 1分34秒794   93.9% ハミルトン
 19 5.554km 1分34秒779   93.9% ハミルトン

IMG_7583
09年から昨年19年の11年間ですので時代も新しく、記憶にあるものがほとんどですね。中間くらいの位置に大型レギュレーション変更の2014年を挟んでいるわけですが、これが意外にもあまり違和感無く1分40秒台を推移していますね。ポールポジションを獲得した所属チームをみていくと、初年09年はブラウンGPが薄れかけた頃のマクラーレン、10年から13年の4年間は一部ハミルトンが獲得するもののベッテルとウェバーのレッドブル最強時代、現パワーユニットに切り替わった14年からはロズベルグ、ハミルトン、ボッタスのお馴染みメルセデス組と「その時代の最速マシン」が獲得しています。シーズン終盤、最終戦ということもあり、ある程度成熟したマシンがヤス・マリーナを制しているという事になるのでしょうか。
もう少しタイムを掘り下げていくと、09年にハミルトンが記録した1分40秒948から2年連続で更新され、11年のベッテルは1分38秒481で2.5秒短縮しています。ところが翌12年にブロウン・ディフューザーが禁止されるとタイムが再び1分40秒630と2.2秒近く遅くなってしまっています。コーナリング時に大きなダウンフォースを得られるといわれたブロウン・ディフューザーの有無は大きな損失だったことがうかがえます。現パワーユニットに切り替わっても先程書いたようにタイム的には大きな差は無く推移していますが、16年は11年の最速タイムに接近し、17年にタイヤとウィングの幅広化がされるとタイムは急激に短縮に向かい、17年は対09年比較で4.7秒、最速となる昨年19年は6.1秒も速くなっています。11年と12年、最速の19年のセクター毎のタイムを比較してみます。

・広いトラックを流れるように走るセクター1
 11ベッテル  12ハミルトン 19ハミルトン
  17秒408   17秒627   16秒903
・長いストレート2本のセクター2
 11ベッテル  12ハミルトン 19ハミルトン
  41秒857   42秒620   40秒561
・ヨットを横目にカクカクのセクター3
 11ベッテル  12ハミルトン 19ハミルトン
  38秒933   40秒349   37秒235
● 1周ポールポジションタイム※
 11ベッテル  12ハミルトン 19ハミルトン
  1分38秒481  1分40秒630 1分34秒779

※セクター最速タイムを記載しているため、
 各セクターの合算とポールタイムに差があります

12年と19年を比較すると、全セクターで19年が速くなっており、中でもセクター3で3秒以上速いことに驚かされますね。ダウンフォースを単に削られた時代はタイムが遅くなり、タイヤやウィングを大きくしてグリップやダウンフォースを大きく受けられるようになるとタイムが速くなるという実に「素直な結果」となっていることがわかります。IMG_7586

ヤス・マリーナも開催された11年でサーキット全長に変更がありませんので、単純なタイム比較が可能です。これでタイム向上の様子は完結できるのですが、まだ尺が足りないので今回も一応平均速度換算を行ってみました。

《ヤス・マリーナの予選P.P.平均速度変遷》
 09 5.554km 198.1km/h 100% ハミルトン
 10 5.554km 201.2km/h 101.6% ベッテル
 11 5.554km 203.0km/h 102.5% ベッテル
 12 5.554km 198.7km/h 100.3% ハミルトン
 13 5.554km 200.0km/h 101.0% ウェバー
 14 5.554km 199.0km/h 100.5% Nロズベルグ
 15 5.554km 199.5km/h 100.7% Nロズベルグ
 16 5.554km 202.5km/h 102.2% ハミルトン
 17 5.554km 207.8km/h 104.9% ボッタス
 18 5.554km 210.9km/h 106.5% ハミルトン
 19 5.554km 211.0km/h 106.5% ハミルトン

IMG_7582
割合はタイムと相反する形となるため実に単純です。ヤス・マリーナ一周の平均速度は200km/h台から近年10km/h以上向上しています。平均としてみれば意外にもハンガロリンクと近いような速度域に相当します。長いストレートで速度を稼ぎつつもやはり最終セクター3に続く中低速コーナーによってその速度は打ち消されてしまうんですね。起伏も比較的小さく一見市街地サーキットのような雰囲気にみえて、完全なクローズドであり煌びやかな演出が映える近代サーキットのヤス・マリーナ。近年はチャンピオン争いが決定後に行われることもあり、どちらかといえば肩の力を抜きながら見過ごしてしまうレースっぽいイメージが強いですが、サーキット単体でみれば、まあまあバランスの取れたレイアウトなっているのではないかなと思います。


これまで現役サーキットをはじめ、非開催でもどうにかこじつけて多くのサーキットのポールポジションタイムを比較検証してきました。今後はこれらデータを使い「予選でみるF1最速シーズン」みたいな検証に繋げられたらいいなと考えています。今年はもう残り少なく、あまり時間も無いため、年明けシーズン前の暇そうな時間にでもまとめた結果をお伝えできたらと思います。

にほんブログ村 車ブログ F1へ
にほんブログ村