今回モナコGPを振り返るにあたり、候補2つで迷っていました。どちらもいわく付きで印象の強いものです。ギリギリまで悩んで決めたのは結局プランAの1984年の第6戦モナコGPです。いひひ、最近のmiyabikunはオールドレースに凝っていますね(笑)徐々に古いものにも着手しないと、リアルタイムレースばかりではネタが尽きるし飽きてしまう。プランBは比較的最近のものですので、近い将来振り返ることにしましょう。

1984年シーズンは初登場ですね。この年はルノーをきっかけにF1に浸透しつつあるターボエンジンに「レース中の再給油を禁止し、ガソリンの最大搭載量は220ℓまで」という厳しいレギュレーションが盛り込まれました。ターボエンジンはパワー向上と引き換えの燃費の悪さが玉に瑕ですので、NAエンジンとの調和を採り、どちらのエンジンでもレースで優位に立てる状況が作られました。面白い施策だと思います。
このモナコGPまでの5戦はこのシーズンからマクラーレンに移籍したプロストが開幕戦ブラジルGP、第4戦サンマリノGPの2勝を挙げてランキングトップを走り、ランキング2位は一度の引退を経てF1復帰したラウダが第2戦南アフリカGPと第5戦フランスGPを制して2勝。残る1勝はフェラーリのエース、アルボレートが第3戦のベルギーGPで優勝したのみでマクラーレンがいい形で序盤を突き進んでいます。またセナやベルガーなどといった将来のF1を支えるドライバーのデビューもあり、昨年と同様に「新人当たり年」と言われたシーズンでした。

予選はロータスのマンセルを僅差で上回ったプロストがマクラーレンに移籍して初のポールポジションを獲得。一方でチームメイトのラウダはフェラーリ2台、ルノーの2台とリジェのチェザリスを挟んだ8番手に沈み、抜きどころの少ないモナコでプロスト優位な形で終えました。ちなみに新人セナのF1初モナコは13番手となっています。まだ先輩も沢山いますし、いいマシンを手にした将来が楽しみですね。

《予選結果》
 1 A・プロスト(マクラーレン・TP・MI)
 2 N・マンセル(ロータス・R・GY)
 3 R・アルヌー(フェラーリ・F・GY)
   ※MIはミシュラン、GYはグッドイヤー
  TPはタグポルシェ

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決勝は雨です。路面はサーキット舗装でなく一般舗装だし、狭くトラック両側がガードレールで囲まれたモンテカルロですから、何か波乱が起こる予感。水煙を立てながらスタート。
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サン・デボーテを過ぎボー・リバージュを駆け上がるポールスタートのプロスト。2番手のロータスを駆るマンセルの姿までは確認できますが、サン・デボーテは水煙でよく見えません。何かあったのでしょうか。
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3番手スタートのアルヌーとワーウィックの接触がきっかけで、サードロウスタートのルノーが共倒れ。サン・デボーテのアウトラインを堰き止めてしまっています。モナコのスタート直後の「あるある」です。路面はびたびたに濡れていますからね、気を付けましょう。

上位の離脱を糧に、復帰のラウダが雨の決勝でじわりじわりと牙を剥き始めました。まずは4周目にフェラーリのアルボレートをロウズヘヤピンで
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アルヌーは6周目のマスネで成敗して早くも3位に浮上します。ラウダの強みは予選位置ではありません「決勝でいかにポイントを積み重ねるか」です。着実にプロストを追いかけていきます。

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プロストに代わってマンセルが9周目にトップ立ち、モナコ初優勝に向けてひた走ります。しかし16周目のマスネで足を滑らせて右リヤを思い切りガードレールにぶつけ、リヤウィングを破損。
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完全にウィングが傾いてしまっています。これで雨のモナコは走れません。プロストに簡単に順位を返納し、モナコ初優勝は雨に散る。

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雨が必ずしも悪い方向ばかりには働きません。雨をチャンスとする者もいます。非力なマシンで黙々と走る新人セナが何とラウダにサン・デボーテで襲いかかる。予選13番手から2位へ。
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そしてココにもう一人。チャンピオン経験者のK・ロズベルグの背後に黒い影。ティレルの新人ベロフです。トンネル内で射程圏内に入りました。
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ちょっと見辛いですが、少数派NAエンジンでもトンネル出口の下り坂を使い、並ぶことなく勢いよくポートシケイン(現 ヌーベルシケイン先)に飛び込んでパスしていきます。いいですね、この怖いもの知らず!
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レースまだまだ序盤の24周目に3位ラウダがカジノ手前でスピンしリタイヤ。1台、また1台とマシンが消えて、ベロフは予選最下位の20位から4位に繰り上がります。
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さらにベロフはその後、3位に浮上したアルヌーをミラボーで捉え、2位と3位が1年目の新人という番狂わせが成立していきます。

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しれっとトップを走るプロストですが、実は直近まで2位のセナが迫ってきました。
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雨脚が強まり、ますます後方視界が悪くなります。29周目からプロストがスチュワードにレース切り上げをアピール。このレースの委員を務めるJ・イクスがその訴えを聞き入れ、76周レースの半分に満たない32周で赤旗中止が下りました。

《決勝結果》
 1 A・プロスト(マクラーレン・TP・MI)
 2 A・セナ    (トールマン・Ha・PI)
 3 S・ベロフ (ティレル・Fo・GY)
   ※PIはピレリ、Haはハート、Foはフォード

勢いある若手2人が追走し、雨を苦手とするプロストとすれば半ばいいタイミングで「勝ち逃げ感」を覚える消化不良なレースとなりましたが、雨のレースは一歩間違うと大惨事にも繋がりますし、現に32周時点で生き残っていたのは出走20台中たったの9台と半数以下にまで減っていましたので、続行が賢明という考えには疑問が残ります。レースは荒れたものの2位のセナ、3位ベロフは雨のモナコで初表彰台を獲得したのは嬉しい結果です。昨シーズンの第20戦ブラジルGPを彷彿とさせる若手揃いの快挙ですね。
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レース自体も大荒れと番狂わせがみられたこのレースに「いくつかのオチ」があります。まず3位を獲得したベロフの属するティレルはデトロイト市街地で行われた第8戦アメリカ東GPのレース後車検にて「水タンク内に鉛と微量の硫化水素」が検出されました。俗に言う「水タンク事件」です。これにより今回3位のベロフ初表彰台をはじめ、第13戦オランダGPまでに獲得したティレルの全ドライバーの全順位の剥奪、さらに第14戦イタリアGPから最終戦ポルトガルGPまでの3レースの出場停止という厳しい裁定が下ったことにより、後日アルヌーが3位に繰り上がっています。

《決勝最終結果》
 1 A・プロスト(マクラーレン・TP・MI)
 2 A・セナ  (トールマン・Ha・PI)
 3 R・アルヌー(フェラーリ・F・GY)

また自らレースの早期繰り上げをアピールして、かたち上のポールトゥウィンを果たしたプロストとプロスト以下6位までの入賞者にはハーフポイント付与という扱いとなり、優勝ポイントが9から4.5に半減されました。このシーズンはその後、プロストは4勝を積み重ねたトータル7勝の最多勝を挙げ、気になるラウダは3勝のトータル5勝で終えるも、チャンピオンはわずか0.5ポイント差でラウダの手に渡ることとなります。このモナコGPが晴天になっていればこの順位のままプロストはさらに4.5ポイントを稼いでいたわけですし、赤旗切り上げによるハーフポイントが皮肉にもプロスト自身のアピールによるものとなると、感慨深いものがあります。

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