噂や不確定情報、一過性のネタを取り扱わない当ブログはどうしても現在完了形や過去形の内容に寄りがちです。今回は珍しく「未来の話題」について書こうと思います。
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先日FIAが「2021年以降のF1のビジョン」を掲げました。ファンのみならず関係者が首を長くして待ちわびていたことですね。一部報道で日本語訳されているものが出回り、ご理解されている方も多いかと思いますが、miyabikunなりに訳して、感想や意見を述べます(ご存知の通り英語が「あんな感じ」のmiyabikunですので、誤訳や飛躍している部分があると思います。間違えていたらお知らせ下さい)

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今回の発表は詳細なレギュレーションではなく、あくまで「ビジョン」なので内容はザックリしたものです。ビジョンは4つの骨子に集約されています。

    1. More raceable cars
        もっとレースできるマシンに
    2. More competitive grids
        もっと競争力のあるグリッドを
    3. Cars that make you go “wow”
        「あっ」と言わせるマシンに
    4. A financially viable championship
        財政的に実行可能な選手権に

いずれも大切なことではあるけど、言われるまでも無く分かっているし、当たり前だし、何よりザックリし過ぎじゃないか。というのはさておき(笑)ビジョンやスローガンなんて大抵こんな感じ。以下で一つずつ少し掘り下げてみましょう。

もっとレースできるマシンに
近年行われてきたマシンレギュレーション変更は「前車が引き起こした乱流によって50%低下した後続車のダウンフォースを解決する」ためのものと言われてきました。しかしそれは誤りであり、さらには後続車のタイヤに悪影響を及ぼしていたことがわかりました。タイヤの温度管理がシビアになり、適正温度に入らないとデグラデーションが発生したり、グリップせずにスライドしてしまいました。
対応策としてダウンフォースの不足は「サイドポンツーン下部に空気の流れ道を設けてグラウンドエフェクトを得る」という、以前F1で取り入れられて禁止に至った技術を使って低下率を抑える検討されます。タイヤ対策は13インチから18インチにアップされ、タイヤウォーマー(ブランケット)も廃止提案されました。また、ピットの機会を増やすようタイヤの「保ち方」についてもピレリに改良を依頼しています。

具体的なディテールが発表になっていませんので、文章から察するしかありませんが「グラウンドエフェクトカー」の再来のようです。後続車のダウンフォース低下を地面効果で補完する模様。ご存知の通り、効率的な空力効果できますが、ひとたび挙動を乱すとマシンは一気にバランスを崩して大変危険です。ただ今のマシンは空力効率もよく、サーキット路面も比較的平滑化していますので、F1をはじめ他のカテゴリーで発生したような事故は少なく、ソフト(マシン)やハード(サーキット)の安全対策もなされているので心配は少ないでしょう。どうしても速度向上や限界走行をしようとすると、危険はつきものです。事故や怪我は好ましくありませんが、彼らは世界屈指のプロのレーシングドライバーですし、ドライバーもファンもスピード感やバトルに飢えた生き物ですから、積極的で躍動的なレースを楽しみにしています。
miyabikunは車好きでも「市販状態が最も美しい」と思う人間なので、インチアップにあまり魅力を感じません。F1においてもタイヤのデグラデーションや性能劣化はあっていいし、マシンやドライバーに差が生じてもいいと思っています。そこがいわばドライバー、チームの腕の見せ所です。ただピットインが少ないレースは変化を生みにくいのも事実です。前に書いたことがありますが、保ちのいいタイヤで「頑張ってしまう」よりもむしろ「急激な性能劣化(タレやクリフ)が訪れるタイヤ」の方がいいんじゃないかと考えます。昔M・シューマッハはライバルより多いピットを行いながらも優勝を果たしました。そのようなドライバーの腕、ペース、戦略を駆使して勝ち得るようなレースに期待したいです。FIA会長のジャン・トッドは「レース中の再給油復活」を掲げています。それもアリかと思います。環境問題が取り沙汰される今、時代と逆行している部分もありますが、スタート時の燃料搭載量を戦略に組み込んだり、軽タンク時にスパートをかける、といった変化を取り入れないと「スタートグリッド重要」「スタートダッシュ命」「ピットが終わればあとはナリで」という単調なレースを防ぐためにも「F1はスポーツでありエンターテイメント」と解釈すれば必要に感じます。

《もっと競争力のあるグリッドを》
今優勝争いができるのはたった3チームに限られています。また先日のイギリスGPでポールポジションを獲得したボッタスと20番手のクビカとの差は3秒もあり、そのギャップを半分にすることを目標としています。
対応策は「運転支援装置の一部廃止」「マシンからピットへのテレメトリー削減」「レースエンジニアがマシントラブルに関する指示をするだけではなく、レース中の発熱やタイヤ管理などのマシンの問題を管理する上で役に立つ指示を果たすこと」としています。

この項目は前項で言っていることと遠からずだと思います。リタイヤの少ない近年、予選やスタート依存になれば、当然スターティンググリッドが決勝の「仮フィニッシュ順位」みたいになっているのが現状です。ただ、命題に対して掲げる対応策で改善が図れるかも疑問に感じます。チーム格差については以下の「項目4」にも関わるところです。以下でも書きますが、コスト削減やパーツの標準化などで解消できるとも思えません。例に出ているイギリスGP予選でのボッタスとクビカの差は厳密には3.164秒でした。この両者、既にエンジンは共通です。それでこの差です。クビカはブランクや加齢、右腕の役割にハンデがあるにしても、過去を振り返ればなかなかなレース巧者でした。本来であればラッセルに負ける程度のキャリアではありませんが、現実はこうなってしまっています。

《「あっ」と言わせるマシンに》
F1はシングルシーターレースの頂点に位置することが基本であるとともに「ファンの寝室の壁に飾られる」ようなカッコよさも必要です。まずは納得し切れていないフロントウィングの改善を認識しています。
対応策には面白い試みを検討しています。それは「ファンとの会話」とのこと。F1の方向性はファンが大部分を占める、と考えられています。自動車のデザイナーと協力してデザイン面にも注力します。

タイムや速度もそうですが、人気も「最上級カテゴリー」であることは必須ですね。ファンの意見を取り入れる姿勢は興味深い。ドライバー・オブ・ザ・デイもファン投票ですから、そういう意味で以前よりも身近に感じます。今までファンからしたらダサかろうが音がショボかろうが「そういうレギュレーションですから」「全車それでやっていますから」と言われたら、その中で楽しんだり応援するしかありませんでしたもんね。ファンの意見をどうやって受け付け、どのタイミングでどの程度反映できるか見ものです。ノーズコーンやハロなど、様々な物議はありつつも、やはりメルセデスW10はカッコよく見えてしまう。どちらが先かはわかりませんが、ディテールはともかく自然と「速いマシン、強いマシン=カッコよく見える」という流れになる気がします。格好だけで遅くなるのもダメだし、速さ、コスト、安全を完全網羅することも、本来は難題です。

《財政的に実行可能な選手権に》
チームがより少ないコストで簡単に参戦できるように考えられています。以下に示す「目に見えにくい部分」の制限や標準化を検討します。

    ・ホイールの標準化
    ・ブレーキシステムの標準化
    ・油圧サスペンションシステムの禁止
    ・特異な素材への使用制限
    ・ラジエターの標準化
    ・ギヤボックスパラメーターの凍結
    ・ピット装置の標準化

これらによって、大きなチームが零細チームを打ちのめしてしまうことを防ぐことを目標とします。ただしコスト削減はドライバーの収入やチームクルーの収入には及びません。

一時期ECU(コンピューター)をあるメーカーに標準化した時代がありましたね。今はタイヤもピレリ一社独占で「標準化されている」といえます。どうでしょうか、上記のパーツ、デバイスの標準化や廃止でだいぶコスト削減になりそうでしょうか。共通部位が増えれば、マシンによる優劣は減り、ドライバーの腕による競争が色濃くなります。この手の変更で気を付けたいのは「どのメーカーが担うのか」と「チームのオリジナリティが減る」こと。前者のメーカーについては、既存で使用されるメーカーが請け負うと、現時点で採用するチームの意向や好みを取り入れがちです。導入前テストも以前にそんなことがありましたよね。後者についても、他カテゴリーや下位カテゴリーでよくある「共通シャシー」みたいな現象が起きて、がんじがらめな中にもチームの開発意欲や工夫が懲らせなくなります。どの方向性に持っていくかによって解釈は変わります。いっそのこと「シャシー共通にして、戦略とドライバーの腕で勝敗を決める」にすれば、確かにコストはドライバーやチームクルーの収入差でしかなくなるし、マシンの開発度や出来不出来も帳消しにできる。また「コストの上限額を定め、その中であれば何やっても文句は言わない」とすれば、安く速く組み上げたチームが優れていると判断できます。あまりやり過ぎちゃうと、そもそもF1をやる意義、最上級カテゴリーのハイレベルな戦いの足かせになってしまうので悩ましいですね。

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詳細が見えてくるまで時間や議論が続くことでしょうが、2021年以降のF1を公平によりよく楽しめる変更を目標としています。いい方向に進むことをファンとして願いたいですね。

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