多くの最多記録を保持するM・シューマッハ。一時期まで後世で更新はできないだろうと思われてきたそれらが近年上回る日が来るかもしれないことをハミルトンが予感させてくれています。ハミルトンは特にこの5年F1界を席巻し、近代どころかF1全史で最強最速の名をほしいままにしています。ハミルトンについては過去に色々な視点から取り上げていますが、ハミルトンがこれまでに各種大記録にどれだけ近付いてきているかを、レジェンドドライバーと比較検証してみたいと思います。
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※記録は2018年第20戦ブラジルGPまでとし、
  割合は予選出走した数を分母にしています。
  ◯印は2018年シーズン現役ドライバー

《優勝数ベスト5》
  1 M・シューマッハ   91回 / 308戦 29.5% 
  2 L・ハミルトン ◯   72回 / 228戦 31.6%
  3 S・ベッテル ◯      52回 / 219戦 23.7%
  4 A・プロスト           51回 / 202戦 25.2%
  5 A・セナ                  41回 / 162戦 25.3%
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始めはこの手の最多記録で一番取り沙汰される優勝数です。歴代トップ5を抽出して出走数基準のグラフを作成し、miyabikunの勝手ながらドライバー毎に以降の記録と共通の色分けをしています。ハミルトンは黒のプロットになります。
現在のハミルトンは前戦ブラジルGPを制して歴代2位にあたる72勝を挙げています。最多は言わずと知れたシューマッハの91勝でその差は19。仮にこの記録を最短で上回るのは来シーズン2019年の第19戦(アメリカGP)です。さすがにそれはやり過ぎだし、そう簡単に上回れても困っちゃうけど、現状では2シーズン先となる2020年までメルセデスと契約更新しており、今シーズンのように年間10勝してくれるとピッタリ上回れたりする可能性を秘めています。またハミルトンの特筆すべきは「参戦シーズンで最低1勝すること」があります。移籍直後の2013年はメルセデスで勝つことも精一杯なシーズンでした。そこでハミルトンは最少の1勝を第10戦ハンガリーGPで成し遂げています。
他のレジェンドと比較すると、デビュー早々から優勝を重ねたハミルトンの出足がよく、50戦を超えたあたりから赤のシューマッハと青のベッテルが似たような仰角で伸びています。ベッテルこのあたりで「シューマッハの後継者」と期待されましたよね。ベッテルはシューマッハをも凌ぐペースで勝ち続けるも、120戦付近でピタリと途絶えました。暗黒の「リカルド大敗」期です。ポツリポツリとやっている間にシューマッハのフェラーリ黄金期が訪れ、170戦あたりから同期同世代のハミルトンも同様な伸びでベッテルを引き離して現在に至ります。
ハミルトンは先日228戦目を優勝で終えています。一方で同時期まで平行に立ち上がっていたシューマッハの優勝は伸び悩んでいます。これはちょうど2005年、そうアロンソやライコネンの若い2人にけちょんけちょんにやられた頃。幸いにもハミルトンには引退を意識するほど追い込まれるには至らないでしょうから、このシューマッハの伸び悩む期間に近付くことは容易だと思います。
1990年代に偉大な記録とされていたセナ・プロの両者は数こそ10勝の開きはありますが、似たような戦績で推移していたんですね。このネタになると毎回クドいですが、早過ぎる戦死が悔やまれますね。でもそのセナとて後世のシューマッハやハミルトンには後に抜かれていた可能性が高そうです。

《表彰台数ベスト5》
  1 M・シューマッハ 155回 / 308戦 50.3% 
  2 L・ハミルトン ◯ 133回 / 228戦 58.3%
  3 S・ベッテル ◯    110回 / 219戦 50.2%
  4 A・プロスト         106回 / 202戦 52.5%
  5 K・ライコネン ◯ 103回 / 293戦 35.2%
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先程の優勝を含め表彰台に登壇した数のベスト5になります。こちらもシューマッハが最多155回を記録し、ハミルトンは頭一つ出た単独2位の133回となります。グラフにするとプロット数が多いため、折れ線グラフみたい。
ハミルトンはライバルと異なり優勝と同様にキャリア序盤で幸先よく積み重ねています。トップは210戦以降でモタつきがみられるため、2年あれば並んで超えるペースになりそうですね。
ハミルトンとベッテルはほぼ同期といえる2007年入社ですからデータ比較しやすいです。ハミルトンの角度が寝だした頃にベッテルの台頭が見られました。
今回まとめた各グラフと見比べると、トップ4は比較的まとまりのある、似たような傾きをなしています。このクラスのレジェンド達はいかなるシーズンもコンスタントに表彰台を確保してきたことを物語っています。唯一4人と異なるのはグレーのプロットの現役ライコネン。先日のブラジルGPも登壇したベテランはこれまで非常にムラがあります。表彰台獲得率はトップ4が2戦に1戦以上の登壇となる50%を超えてくるところ、ライコネンは35%で3戦に1戦ペース換算です。来シーズンから格下ザウバーに出戻ることにしたライコネンの獲得率は今後もう少し下がることになりそうです。

《ファステストラップ数ベスト5》
  1 M・シューマッハ   75回 / 308戦 24.4%
  2 K・ライコネン ◯  46回 / 293戦 15.7%
  3 A・プロスト          42回 / 202戦 20.3%
     L・ハミルトン ◯   41回 / 228戦 18.0%
  5 S・ベッテル ◯      35回 / 219戦 16.0%
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決勝レース中の最速ラップです。これは現代のF1ではポイント付与がありませんし、優勝以外のドライバーも記録でき、エンジン、タイヤ、ガソリンの節約や戦略差も影響。単純に「回数が多いから優れている」というものでもないためmiyabikunもとりわけ扱ってきませんでした。ただこちらもハミルトンは歴代で上位に名を連ねていることから、今回クローズアップしました。
狙いにいって記録するものではないので、この集計が今回最も分散しています。ファステストラップは戦略や予選位置、置かれている状況に起因すると思われます。ポールトゥウィンの場合は後ろをみて走る事ができるため、どちらかというと「予選や決勝戦略上で後方に沈んだ者が追い上げる」場合に記録しやすいです。2位の現役ライコネンが他記録に比べて歴代上位に入るのがその走り方を象徴していると思います。予選やスタートダッシュが得意でないから、優勝や表彰台を獲得するために必然的に多く記録することになります。ポールスタートから優勝や表彰台獲得が多いハミルトンやベッテルは他のランキングより低いのはそのわけです。セナに対してプロストもその傾向が強いため上位にノミネートされます。とはいえ、ハミルトンはライコネンの数に対してあと5に迫ります。シューマッハの77はともかく、ライコネンを上回るのは時間の問題だと思われます。今後は戦い方からしてフェルスタッペンあたりがこの記録を積み重ねてきそうですね。

《ポールポジション数ベスト5》
  1 L・ハミルトン ◯   82回 / 228戦 36.0%
  2 M・シューマッハ   68回 / 308戦 22.1% 
  3 A・セナ                  65回 / 162戦 40.1%
  4 S・ベッテル ◯      55回 / 219戦 25.1%
  5 J・クラーク           33回 /   73戦 45.2%
     A・プロスト           33回 / 202戦 16.3%
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ハミルトンの代名詞となりつつあるのがこのポールポジション獲得回数。ポールマスターであったセナをまずシューマッハが上回ることに成功、近年はハミルトンがポールマスターとなって絶賛更新中です。F1は決勝順位でポイントを積み重ねて争われるわけで、ポイント付与がないポールポジションは必ずしも必要かと問われたらそんなこともありません。ただし、近年のパッシングに困難を極めるF1において、ライバルの前でスタートできることは決勝順位にも大きな助けとなり、何といっても「タイヤや燃費によらない、純粋な実力と最速ラップ」が表せることが醍醐味です。そう考えると、ポールポジション獲得回数こそが「F1最速ドライバー」であるといえるでしょうか。そうなるとハミルトンは歴代F1最速ドライバーも過言ではないということ。少なくても現パワーユニット時代においては敵なしの速さを持つことに間違いはありません。
近年最大のライバルであり、歴代単独4位、現役2位のベッテルはハミルトンに大きく水を開けられました。決勝はイライラでやらかし癖がなかなか抜けませんが、ハミルトン同様に予選一発の速さは持ち合わせています。ハミルトンと同じ時期にドライブしているとなかなか容易な事ではないものの、まずはシューマッハ師匠を上回り、ハミルトンと切磋琢磨していってほしいですね。

《ポールトゥウィン数ベスト5》
  1 L・ハミルトン ◯   46回 / 228戦 20.2%
  2 M・シューマッハ   40回 / 308戦 13.0% 
  3 S・ベッテル ◯      31回 / 219戦 14.2%
  4 A・セナ                  29回 / 162戦 17.9%
  5 A・プロスト           18回 / 202戦   8.9%
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何回か書いていますが、miyabikun個人的にはこの記録、レース展開は好きではありません。ドライバーやチームからしたら、ライバルに常にテールを見せつけて逃げ切ることほど気持ちがいい勝ち方はないでしょうね。近年特に流行になりつつあるポールトゥウィン回数です。この記録はいわば先程の優勝グラフとポールポジショングラフのプロットが重なったようなものとなります。
このグラフを見ていると、ちょっと面白いことに気付きます。歴代1位となる45回を記録するのはセナが大好きハミルトンです。ハミルトンは歴代2位のシューマッハと似たペースとなっています。一方でシューマッハが英雄の歴代3位ベッテルがセナをトレースしているかのよう。お互いのヒーローと逆だなんて、狙うわけもなくたまたまなことではありますが、これも何だかハミルトンとベッテルの関係性と運命めいたものを感じてしまいました。
歴代5位にあたる水色のプロストであっても数はわずか18回です。得意とする勝ち方、置かれたシチュエーションによる部分が大きいポールトゥウィン、ハミルトンの45回やシューマッハの40回がとても多く感じます。レースつまんないのー(笑)

《チャンピオン数ベスト5のランキング変遷》
  1 M・シューマッハ   7回(94,95,00,01,02,03,04)
  2 J・M・ファンジオ 5回(51,54,55,56,57)
     L・ハミルトン ◯   5回(08,14,15,17,18)
  4 A・プロスト           4回(85,86,89,93)
     S・ベッテル ◯      4回(10,11,12,13)
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最後はドライバーズチャンピオン獲得上位5人の年次別ランキンググラフとなります。数多くチャンピオンを獲得するレジェンドドライバーはこうして成り上がり、積み重ねていったのです。
レジェンドとはいえ、出始めは先輩ドライバーに圧倒されて、ミスやスランプを経験するものです。グラフをみても、下位につける年もありますよね。そんな中ハミルトンは参戦初年2007年からいきなりチャンピオン争いに名乗りを上げ、2回チャンピオンのアロンソやライコネンといった猛者に引けを取らないデビューを飾りましたよね。初めからとんでもないヤツです。ファンジオと似たようなハイアベレージで進んでいます。さらにいえば一番下位の年でもランキング5位におさまってくるのも優秀。ハミルトンの全レースを観てきていますが、チャンピオンにならずとも、超スランプは経験せずココまでこれているんじゃないかと記憶しています。チームはマクラーレンとメルセデスの2チームのみになりますが、エンジンが全てメルセデスによるものというのも興味深いというか、珍しい。そこまでくると「メルセデスエンジン以外のエンジン」との相性や成績も見てみたいんだけど、、とmiyabikun思いますが。
ちなみに、ハミルトンは初回獲得の2008年から2回目を獲得する2014年までは6年もかかりました。最長間隔チャンピオンは次点3回獲得のラウダによる7年でした。連続記録はご存知シューマッハによる5年連続となっており、ハミルトンは2回連続に止まります。前にも書いたように「3年以上連続」となるとかなり至難の業で、シューマッハ、ファンジオ、ベッテルの3人しかいません。今のハミルトンの勢い、来シーズンも引き続き所属することになっているメルセデスを考えると、決して不可能なものでもないようにみえますね。

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ポール絡みの記録は既に歴代F1で最多を突き進むハミルトン。あとは速さだけでは語れない「決勝絡み」の記録更新が待たれます。記録は塗り替えるためにある。記録更新を目指して欲しい反面、F1にもそろそろ他のスパイス、若手の台頭も期待したいという複雑な心境にかられてしまいます。ただこれだけは言えます。今F1を観て応援している我々は「F1史上最強ドライバー誕生」を目の当たりにするかもしれないということです。

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都内の代々木駅で先日こんなものを見つけました。今まで何度も通る道なのに、全く気付きませんでした。シューをマッハで磨き上げてくれるわけか。たまにインチキしたり八つ当たりしたりしないかな(笑)