前回のフェラーリF10と同様に、他にはない美と工夫を凝らすも、こちらもやっぱり「上昇気流に乗ったレッドブル」の影に隠れてしまった一つである2012年型「マクラーレンMP4-27」をみていきます。戦績だけでみれば、普段のチャンピオンクラスのマシンといえると思います。

《設計》
パディ・ロウ
ティム・ゴス

《外見》
設計は後に常勝チームとなるメルセデス、そして現在はウィリアムズでテクニカルオフィサーの座に就くパディ・ロウが携わりました。
この時代のマシンは一貫して「ノーズに段差があってダサい」シルエットになりましたよね。強いレッドブルも名門フェラーリも例外ではありませんでした。しかし、マクラーレンは違う!
ノーズに段差がある「ステップドノーズ」ではありません。美しいではありませんか!この年以外もマクラーレンにはあの滑稽で醜い段差は一貫して設けないでレギュレーションやクラッシュテストをクリアしています。それはマシン転倒時の安全上「ノーズ先端の高さは車体底部から550mm、モノコック前段の高さは625mm」というレギュレーションに対して、ベース車となっている前年のMP4-26時代からモノコック自体が低く設定されていたため、急激な変更も要しませんでした。
序盤のノーズは緩やかに下方に垂れた形状、
改良型は前方に薄く伸びた形状となっています。カラーリングからして、メタリックアヒル、いや薄い刃物のよう。

またこの年から「エキゾースト・ブローイング(ブロウン・ディフューザー)禁止」に伴い、マクラーレンは新たに「コアンダ・エキゾースト」なるものを開発してきました。コアンダ現象とは「流体(空気)が壁(車体)の曲線などに沿う」動きをすることで、航空機で用いる物理現象の一つです。例えば容器から水をこぼす時に真下にこぼれず、容器に沿い伝って少し流れちゃうアレです。高速、高圧のエキゾーストをエンジンカバーのカーブに伝せて、それを一定の方向を狙うことでトラクション向上を期待します。マクラーレンはサイドポンツーン後方の絞りの中腹にコブを設け、溝から排出しています。メタリックな質感も助けになってかディテールが「航空機にある便器」を連想します。
カラーリングはマクラーレンお決まりのピカピカのシルバーメッキに赤のボーダフォン。ラインナップでひときわ目立つこの色も2006年から7年目ともなるとだいぶ見慣れてきました。
《エンジン》
メルセデス・ベンツFO108Z
V型8気筒・バンク角90度
排気量:2,398cc(推定)
最高回転数:18,000rpm(制限)
最大馬力: - 馬力(非公開)
スパークプラグ:NGK
燃料・潤滑油:モービル

《シャシー》
全長: - mm
全幅: - mm
全高: - mm
最低車体重量:640kg(ドライバー含む)
燃料タンク容量: - ℓ
ブレーキキャリパー:曙ブレーキ
ホイール:エンケイ
サスペンション:フロント プッシュロッド
                                 リヤ    プルロッド
タイヤ:ピレリ

《ドライバー》
No.3 ジェンソン・バトン(全戦)
No.4 ルイス・ハミルトン(全戦)
《戦績》
378ポイント コンストラクター3位
(1位7回、2位3回、3位3回、4位3回ほか)
ポールポジション8回

ドライバーは2008年チャンピオンのハミルトンと翌2009年チャンピオンのバトンの2人で臨む3年目となります。チャンピオン獲得から少し間がありますが、以降はベッテルが2回連続で獲得していることもあって、ベッテルに次ぐ新しめのチャンピオン2人ではあります。このマシンだけでなく、前年の2011年もMP4-26で全19戦中6勝してもバトンが大きく離された2位、コンステラクターも大敗の2位。2人をもってしても、ベッテル&レッドブル&ニューウェイには敵わない、厚く重厚な壁でした。
2011年シーズンの弱点であった予選はだいぶ改善されました。ハミルトンが開幕から2戦連続で獲得し、序盤はバトンの開幕戦優勝とハミルトンも表彰台を堅持しています。ところが第5戦スペインGPでのハミルトンの「ポール除外」あたりから急激に調子を崩し、ハミルトンは入賞圏内フィニッシュするも、バトンは入賞に程遠い順位が続きました。
改良を施した中盤の第10戦ドイツGPでバトンが久々の2位表彰台を皮切りに第11戦ハンガリーGPがハミルトン、第12戦ベルギーGPはバトン、第13戦イタリアGPでハミルトンが優勝し、第14戦シンガポールはバトンが2位と4戦連続となるポールポジション獲得で息を吹き返しましたと思われました。しかし時既に遅し、終盤の2戦で優勝を飾るも、序盤の足踏みと中盤の追い上げはチームメイトどちらか一方に起きるという大量得点には及ばず、チャンピオンチームのレッドブルと同数となる7勝、また表彰台数13で上回るもフェラーリに抜かれたコンストラクター3位で終えてしまいました。

全20戦で優勝者8人、チャンピオン経験者6人を揃えて混戦したシーズンをバックマーカーの処理やピットでのもたつきなど「あと一歩の詰めの甘さ」で失ったマクラーレンとこのマシン。普段ならチャンピオンクラスの内容でも「切れ味」という意味では山あり谷ありで歴代のマクラーレンのチャンピオンマシンには及びませんでした。徐々にチームへの不満を露わにしたハミルトンはこの年を最後に初めてチームを移籍し、熟成し始めたメルセデスに上手く鞍替え。チャンピオン2人体制に終止符を打つ形で若手のペレスやマグヌッセンを起用する流れに移行することとなります。なお、名門マクラーレンとして優勝は現在に至るまでこのマシンによる最終戦ブラジルGPが最後、間も無く5年経とうとしています。

皆さんはお盆休み満喫できましたか?!とうとうmiyabikunの夏休みも今日で終わり。計画していた愛知まで900km日帰り弾丸ドライブもやらず終いで近所のスーパー銭湯に行けたくらい。F1より先に仕事始めだトホホ。