前回はグラウンド・エフェクトカーの先駆けマシン。今回はグラウンド・エフェクトカーが1982年シーズンをもって禁止され「フラットボトム規定」の初年度のマシン、ブラバムBT52,BT52Bになります。マシンレギュレーションの変革となるタイミングで空力の鬼才と呼ばれたゴードン・マーレーの選んだ策とは如何に?!

《設計》
ゴードン・マーレー

《外見》
実はブラバムは1983年に導入を予定していたBT51という名のグラウンド・エフェクトカーを引き続き開発中でした。しかし相次ぐ事故やグラウンド・エフェクトカーの弱点である「挙動を乱した際に不安定になる」ことを危惧して1982年のシーズンオフである12月に使用が禁止され、フラットボトム(マシン底面を平らにする)とすることが規定されたため、シーズンオフに急遽再設計したのがBT52でした。そのためBT51は本戦において欠番です。
採用2年目となるBMWエンジンは小型で強力。そのスケール感を活かし、前年までの「車体そのものを一枚の羽」としていた思想を止め、空気抵抗を極力小さくする方法を採りました。真上から見ると後退翼のフロントウィングをはじめ、まるで矢印の様な形状をしています。後方に下がり、かつ後退したサイドポンツーンは見た目が左右対称でも内部の役割を分け、右側がラジエター、左がインタークーラーとして冷却効果を二分しています。ウィングレットを装着して前年より確実に巨大化したフロントウィング、リヤウィングでターボのパワーを路面に押し付けます。
このマシンの秀逸な点は「ピットへの配慮」がなされていることでした。ピット時の給油のし易さを考えてコクピット後方側面に給油口を設け、燃料タンクは小さくすることで車体のスリム化とマシンの前後重量バランスに貢献しています。ライバルのルノーと比較すると給油のし易さは歴然としていました。

全15戦で前半8戦はBT52、第9戦イギリスGPからはフロントサスペンションに改良を施したBT52Bを導入しました。サスペンション根元のコブの有無以上にカラーリングが反転しているのでわかりやすいですね!こちらが前期型のBT52。紺色が目立ちます。
こちらが後期型BT52Bです。白が主役に。意図は定かでありませんが、前期型のノーズのカラーリングはBMWお決まりの豚の鼻の穴「キドニーグリル」を連想しませんか?後年のBMWザウバーにも描かれたコレ。 ひょっとして、お約束?!
スポンサーは長年F1と関わりを持つイタリアの食品メーカーのパルマラット。さらには韓国のスポーツ用品ブランドであるフィラがメインとなっています。

《エンジン》
BMW M12/13
直列4気筒・バンク角 - 度
キューネ・コップ&カウス製シングルターボ
排気量:1,499cc(推定)
最高回転数:11,000rpm(推定)
最大馬力:649馬力(決勝仕様の推定)
燃料・潤滑油:カストロール
《シャシー》
全長: - mm
全幅: - mm
全高: - mm
最低車体重量:540kg
燃料タンク容量:100ℓ
タイヤ:ミシュラン

《ドライバー》
No.5 ネルソン・ピケ(全戦)
No.6 リカルド・パトレーゼ(全戦)

《戦績》
72ポイント コンストラクター3位
(1位4回、2位3回、3位3回ほか)
ポールポジション2回
※戦績はBT52、BT52B含む

ドライバーは1978年から加入して1981年にはブラバムで逆転チャンピオンを獲得しているベテランのピケと、長くドライブするもなかなか開花せず前年にようやく初優勝を得たパトレーゼによる組合せ2年目です。
各チーム大幅なレギュレーション変更で不安のある中、開幕戦ブラジルGPを制したのはブラバムを駆る地元のピケでした。このマシンの特徴的なところは「極力軽タンクで走行し、レース中に給油を巧みに行って前に出る」戦い方です。このBT52はそれを目論み、少しでも軽量でかつマシン重量配分を考え、給油し易さも設計に組み込みました。シーズン通してポールポジションは少なく、ピケ1回、パトレーゼ1回のたった2回に過ぎません。方や ライバルであるルノーのプロストは3回、アルヌーとタンベイのコンビのフェラーリは2人で8回にもなり差がつきました。決して一番速いわけではないブラバムは、考えに考えたマシンの設計思想や戦略、新レギュレーション対応とピケならではの走りにマッチしたといえます。一方でパトレーゼは第4戦サンマリノGPにフェラーリを捉え、トップに躍り出た矢先にクラッシュし、優勝のチャンスを棒に振るなどもあり1勝止まり。万年2番手の鉄人パトレーゼとの大きな違いとなりました。
BT52Bを導入し、結果的にピケは3勝で迎えた最終戦南アフリカGP開始前にランキング2位。ランキングトップの最多勝4勝のプロストはペースダウンからのターボの不調でリタイヤによって最終戦で大逆転、ピケ2度目のチャンピオンを獲得する形となりました。
残念ながらコンストラクターズランキングはフェラーリ、ルノーに続くブラバム3位。三者の優勝回数は4回ずつで全てターボ搭載車で並びますが、もう少し安定した表彰台が築ければ、フラットボトム規定初年度を最優秀マシンで終われていたのかもしれません。長く参戦した名門ブラバムの4回のドライバーズチャンピオンはこのマシンが最後となっています。