近年トレンドになってきたヘルマン・ティルケの手がけたサーキット。新規に行われるもののほとんどが彼の手がけたものばかりです。今回は彼の簡単な略歴と手がけてきたサーキットを調べてみました。

ヘルマン・ティルケ
1954年生まれの今年61歳のドイツ人です。
本職は建築家で1984年に「ティルケ・エンジニアリング」というモータースポーツにまつわるものを建築、土木、電子の各分野から手がけるデザイナーです。

なぜF1によく採用される、逆を言えばF1に採用されるものが彼の手に渡るのか。それはGP開催を牛耳るFOAの最高責任者であるバーニー・エクレストンの娘の旦那であることも大きく関わっていると思います。



彼が初期に手がけたものとして、今年も開催されたレッドブル・リンク(当時A1リンク)があります。そもそもオーストリアGPはエステルライヒリンクという名で1970年から1987年まで行われていました。

エステルライヒリンク(改修前)
コース全長:5.941km
コーナー数:18
F1使用期間:1970年~1987年
改修前はご覧の通り滑らかな平均時速250キロ近い超高速サーキットで、今と変わらずの起伏に富んだ高低差、度胸試しと言われたブラインドコーナーありと人気のあるサーキットではありましたが、多重クラッシュが頻繁し、サーキット管理の悪さに使われなくなってしまいました。そこでヘルマン・ティルケによって1995年にお馴染みのレイアウトに仕立て上げ、名を「A1リンク」と変えてF1が行われるようになりました。

A1リンク(改修後)
コース全長:4.326km
コーナー数:10
F1使用期間:1997年~2003年、2014年~
コース全長は短くなり、コーナーも減って中速レイアウトにはなりましたが、オーバーテイクは比較的しやすく、ランオフエリアは芝から舗装面が増えました。今はレッドブルが買い取り「レッドブル・リンク」となって2014年から同じレイアウトのまま復帰しています。



他にも多く彼の手がけたサーキットがあるので、レイアウトとともに見ていきます。今回も図をお借りします(改修後にF1で採用されているもののみ)

1999年 セパン国際(新設)

2001年 ニュルブルクリンク(改修)

2002年 ホッケンハイムリンク(改修)

2004年 バーレーン国際(新設)

2004年 上海国際(新設)

2005年 イスタンブール・パーク(新設)

2005年 富士スピードウェイ(改修)

2008年 バレンシア市街地(新設)

2008年 マリーナ・ベイ(新設)

2009年 ヤス・マリーナ(新設)

2010年 韓国国際(新設)

2011年 ブッダ国際(新設)

2012年 サーキット・オブ・ジ・アメリカズ(新設)

2014年 ソチ・オリンピックパーク(新設)

2016年 ポート・インペリアル市街地(新設・予定)



改修もありますが、多くはF1を誘致し初開催されるものでFIAのT1グレード(F1などを開催できる最高グレード)のサーキットを建設する時に新設されることに貢献しているようです。今は開催されていませんが、トルコGPのイスタンブール・パークにあるターン8は回り込む左の複合高速コーナーでライン取りが難しく、好タイムを出す上で肝になる名コーナーと言われています。

特徴としては「ストレート手前の加速に重要なコーナーデザイン」「追い抜きに使用される幅員の広いストレート」「ストレートの後に急減速が必要な低速コーナー」があるようです。ストレートでのオーバーテイクを演出していますが、ストレートに限られてしまうのが難点でもあります。

また、近年特に叫ばれている「安全性」を考慮し、ランオフエリアの舗装化が目立ちます。アメリカGPで行われるサーキット・オブ・ジ・アメリカズは舗装面が多く、星条旗に使われる赤白青をふんだんに使ってのペイントが目を惹きます。

さらに各国の特徴を取り入れた施設作りにもこだわりがあるようで、中国GPで使用する上海国際のレイアウトは漢字の「上」を模していたり、マレーシアGPのセパン国際はスタンドの屋根がバナナの葉を模しているとのこと。なかなか粋な演出です。



その大活躍のヘルマン・ティルケサーキットで問題視されている点も挙げてみます。
コンセプト上のことでもありますが、レイアウトがどこも似通っていると言われています。セパンと韓国、どことなく似てませんか?!パックマンみたいで。コース全長は5km台前半におさまるものが多いです。また、サーキット・オブ・ジ・アメリカズは各サーキットの名コーナーを模してきたものを連ねて構成されていることからも、最近ネタ切れしてきたんじゃないかなという感じもします。

サーキット・オブ・ジ・アメリカズの構成
・ターン2、3
    インテルラゴス「エス・ド・セナ」
・ターン4~6
    シルバーストン「マゴッツ、ベケッツ、チャペル」
・ターン12~14
    ホッケンハイムリンク「スタジアムセクション」
・ターン16~18
    イスタンブール「ターン8」

また、ランオフエリアが舗装化されたことにより、コースアウトからの復帰も容易になり、ミスを最小限で抑えられるので退屈。といった意見も大物の元F1ドライバーからあります。さらに、オーバーテイクがしにくいサーキットがあったり、観客席から見にくくなる部分も多いとか。

以前も「ドライバーの事故」で書きましたが、もちろん安全性や整った設備を有していることがいいに越したことはありませんが、過去に使われてきた伝統的なサーキットや危険といった理由で廃られ、多くが彼の手がけるものになってしまうのは退屈かもしれません。何せ同じ人が監修しているから、似てくるはずです。ベルギーGPのスパ・フランコルシャンや日本GPの鈴鹿のようなオールドサーキットが人気を博す理由もよくわかります。

今後、彼の手がけたタイのチャーン国際もF1誘致に名乗りを上げています。これからも様々なサーキットが消えては増えとしていく中で、今まで以上にアグレシッブでチャレンジングなものがデザインされ、選択されていけばといいなと願っています。


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